なでしこが強い理由
スポーツは、身長が高い方が有利であるが、なでしこの平均身長は、欧米の選手より低い。外国の選手は、体が大きく、瞬発力も強い。個人技にも勝る。これでは中学生と大学生が試合をするようなものである。これで勝てるのなら、むしろ不思議である。
しかし、持久力では、日本の女子選手は優れている。陸上競技の短距離では勝てないが、長距離なら勝てる場合がある。例えば、女子マラソンにおいて、高橋尚子氏はシドニーで金メダルを獲得し、野口みずき氏はアテネで金メダルを獲得し、有森裕子氏は、バルセロナで銀メダル、アトランタで銅メダルを獲得した。
なでしこは、持久力が外国の選手より優れている。それが端的に出ていたのは、今回の対オーストラリア戦である。この試合では、グランド・コンディションは悪く、ピッチ上の気温は、30度を超えていた。試合は、開始直後から、両チームとも飛ばした。これではとても90分は、もたないであろうと思われた。後半のオーストラリア選手の動きは悪く、アジアの強敵とは思えなかった。オーストラリア・チームの監督は、試合後に、「前半の20分で消耗した」と述べておられた。
前回のワールドカップでMVPを獲得した澤穂希氏は、「苦しい時は私の背中を見て」と述べておられる。これは90分間を走り通すという意味である。前回のワールドカップの決勝戦では、120分が近づいても、澤氏を始めとする日本人選手は、集中力とスピードを維持していた。
慶応大学の坪田教授は、ヒトが馬に勝つ話を紹介しておられる。短距離走ではヒトは馬に勝てないが、80kmほどの距離なら、よい勝負になるとのことである(「1日6時間座っている人は早死にする」坪田一男著、p110)。
この話の原典の本には、弱小の現生人類が、強大なネアンデルタール人に勝利した理由が書かれている。「(体重が)72.5キロのランナーは、マラソンで45キロのランナーと競った場合、体熱の均衡を保つために、1マイルにつきほぼ3分の差をつけられる。鹿を2時間追跡したとしたら、ランニングマン(現生人類)は、ネアンデルタール人のライバルを10マイル以上引き離したであろう」(「走るために生まれた」マクドゥーガル著、p329)。
体が小さい方が、体熱を発散する効率が良いのである。
また「ウドの大木」とか「大男、総身に知恵が回りかね」という表現がある。神経の伝達速度は一定であるので、体をすばやくコントロールするには、小柄である方が有利である。ドリブルが得意なメッシ氏の身長は、169cmであり、そんなに大きくない。同じようにドリブルが得意ななでしこの岩淵氏は、身長が155cmである。また、ワンバック氏が180cmあるのに対して、なでしこの宮間氏は157cmである。瞬間的な判断を行って、すばやくパス回しをすれば、巨人を相手に勝てるチャンスがある。巨大な恐竜は、ゆっくりとしか動けないので、俊敏な哺乳類の敵ではなく、生きた食料である。
なでしこは、大勝はできない。中学生は大学生と戦って大勝はできない。消耗戦に持ち込んで、動き回った挙句に、幸運があれば1点取らせてもらうのである。なでしこは、いつも、苦労して、全力を尽くして、かろうじて勝つのである。
歴代の日本男子チームの監督は、オシム氏を含めて、このことを充分に意識していない。ヨーロッパサッカーの亜流を持ち込むだけである。チームの総力で相手を消耗させる戦術をとっていない。本田氏と香川氏の個人技に期待している。日本は、スマートに華麗には、勝てないのだ。120分走れる選手を出して、総力戦、持久戦に持ち込むべきだ。また、小柄でドリブルのうまい選手を出すべきだ。また、パス回しの速い選手を出すべきだ。現在、日本女子のFIFAランキングは、4位であるが、日本男子は50位であり、イランの38位より下である。外人監督により、長年にわたり、各種のヨーロッパサッカーや南米サッカーが導入された結果である。監督を雇う時に、チビのチームはどうすれば勝てるかを聞いて、正しく答えた監督を雇うのが良い。
ところで、相手を消耗させるためには、日本チームは、特に試合の前半で、ボール保持に辛くなるべきだ。日本ボールのスローイン後は、30秒後には、相手チームのボールになっていることが多い。大きくバックパスをすればよい。もし、プレスによりボールを取りにきたら、とことんボールを回せばよい。むしろ、相手を消耗させるチャンスである。運悪くボールを取られそうになった場合でも、最低限、カウンターを行う振りをするなどして、相手を走らせるべきだ。
今回の女子ワールドカップの決勝戦では、ハーフタイム後の後半戦では互角であった。実際、この試合におけるボールの支配率は、日本の方が多く、52%であった。前回大会のこともあるので、米国はリードしたからといって、緩むつもりは無かったであろう。もし、オーストラリア戦のように、試合の立ち上がりに、日本がボールをキープして相手をある程度消耗させることができていれば、前半を互角に戦うことは可能であったと考える。その後、消耗戦に持ち込めば、勝つチャンスは充分にあったのだ。
1998年のアジア最終予選のアジア第3代表決定戦において、日本の男子は延長の末、イランに3対2で勝利した。岡田武史監督は、終盤で、野人・岡野雅行氏を起用した。「岡野を走らせろ」とファンは述べた。起用された岡野氏は、消耗したイランから、延長の残り3分で決勝ゴールを奪った(ジョホールバルの歓喜)。このような総力の消耗戦を日本の勝ちパターンとすべきだ。香川氏と本田氏による華麗な勝利ではない。
https://www.youtube.com/watch?v=8qC-v-rHelc
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