「年長者における背骨の圧迫骨折」という文章を読みました。

Am Fam Physician. 2004 Jan 1;69(1):111-116.
http://www.aafp.org/afp/2004/0101/p111.html

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(要旨)
背骨の圧迫骨折は特に年長者に多い。背骨の椎体の圧迫骨折は、通常は骨粗しょう症によって起こり、軽症から重症まである。重症の骨折は、ひどい痛みを生じさせ、日常生活の活動を困難にし、余力が少ない年長者には生命の危険となる衰えを生じさせることがある。病歴や診察所見から、圧迫骨折が疑われた場合に、単純エックス線写真やCT検査やMRI検査を行えば、正確な診断を行って予後を判定する役に立つ。伝統的な保存的治療は、ベッド上の臥床、疼痛コントロール、身体的治療(理学療法)などである。椎体形成術のような介入的な手技は、初期の治療に反応しないような患者さんに対して考慮される。家庭医は、圧迫骨折をもたらす要因を把握し治療し、転倒や転落を防ぐ方法を患者さんや人々に伝えることにより、圧迫骨折を予防する手助けをすることができる。

(本文)
背骨の椎体の圧迫骨折は、合衆国の80歳の女性の約40%に認められる。

一般的には、背骨の椎体の圧迫骨折には、何らかの外傷を伴う。重症の骨粗しょう症の場合には、外傷は軽微であり、湯船から出たとか、くしゃみをしたとか、ささいな物を持ち上げたとか、筋肉の収縮による負荷などによって生じることがある。軽い骨粗しょう症の場合には、骨折を起こすには、もう少し強い外力が必要である。例えば、イスから落ちるとか、つまずくとか、重い物を持ち上げるとかである。健康な背骨の場合には、圧迫骨折は、自動車事故や高所からの落下などの重症の外傷によって起きる。

加えられた外力は、通常は、椎体の前方をつぶして、前に細くなる楔(くさび)型の骨折を起こす。

背骨の圧迫骨折は、進行する初期の段階では、潜行性で、わずかな腰痛を起こすだけであるが、時間が経過して、複数の圧迫骨折が起こり、身長がかなり小さくなることがある。身長の低下が進行すると、背骨の周辺の筋肉は、姿勢を保つために、より強い収縮を必要とするようになり、筋肉疲労から痛みを来たす。この痛みは、急性の骨折が治った後も、長く続く。

脊椎の圧迫骨折のうちで、診断されるのは3分の1だけである。多くの患者さんやその家族は、腰痛を「関節炎の症状の一つ」とか、正常の老化に付随するものと見なすからである。それで、もし50歳以上の人が、急に腰痛を来たした場合には、圧迫骨折を疑う必要がある。

診察により、急性の骨折を起こしている部位には、圧痛が認められる。また、円背の増加が認められる場合がある。複雑骨折ではない圧迫骨折では、ラセーグ・テストは陰性であり、神経学的検査は正常である。もし、単純エックス線写真で、典型的な楔(くさび)形の変形があり、それに一致する部位に圧痛があれば、診断は確定的である。

MRIの骨髄シグナルは、急性骨折の存在を明らかにするので、古い圧迫骨折と区別することができる。保存的治療を行っても患者さんの腰痛が続く場合や、痛みが増悪する場合には、フォローアップのエックス線写真やCTやMRIによる再評価が必要となる。

核医学的検査を行えば、新しい骨折は「ホット」になるので、新しい骨折と古い骨折を区別できる。

医師は、まず、その骨折が安定しているか不安定かを見定める必要がある。安定している骨折は、生理的な力や運動によって変位しない。幸いなことに、圧迫骨折は、通常は、衝撃でつぶれたという性質により、二次的には安定している。

伝統的な治療法は、手術をしない保存的な治療法である。患者さんは(2、3日を越えない)短期間だけ、ベッド上で臥床する。特に年長の患者さんは、活動性の低下を避けなければならない。経口または非経口で、痛みをコントロールする鎮痛剤が投与される。カルシトニンの点鼻薬を、痛みの治療に用いることができる。筋弛緩剤、腰部コルセット、身体療法(理学療法)が役に立つかもしれない。非ステロイド抗炎症剤は、年長者では、消化管出血を増やすので、注意深く用いる必要がある。

保存的治療に反応しない患者さんや、ひどい痛みが続く患者さんには、経皮的椎体形成術を考慮することがある。経皮的椎体形成術では、アクリルの骨セメントを、つぶれた椎体に注入して、椎体を強化する。しかし、この手技では、圧迫骨折した椎体の形や高さを元に戻すことはできない。バルーン椎体形成術では、高圧のバルーンで作った骨髄の空洞に骨セメントを注入するが、今は使用できるかどうかの評価を受けているところである。この治療法は、つぶれた椎体を元に戻すのに役立つかもしれない。

ほとんどの患者さんは、6~12週後には、圧迫骨折から完全に治るか、少なくとも相当に回復する。そして、骨折が完全に治れば、通常の運動プログラムを再開することができる。バランスの良い食事、恒常的に行う運動のプログラム、カルシウムとビタミンDのサプリメント、禁煙、ビスホスホネートなどの骨粗しょう症の治療は、再び圧迫骨折を起こすのを防ぐであろう。高齢だからといって、治療を行わない理由にはならない。

骨粗しょう症を診断して治療することは、背骨の圧迫骨折の発生を予防するという充分な証拠がある。常に活動的であること、筋肉を強化する運動を行うことは、椎骨の骨折を減らし、腰痛を減らすことが示されている。転倒・転落を防ぐ対策が、患者さん本人や、介護者によって行われるべきである。

家庭医は、年長者に椎体の圧迫骨折を引き起こすような要因(例えば、不適切ないし過剰な薬物治療、抑制、危険な家庭環境、身体的虐待など)を評価して対処することにより、自分の地域において、リーダーシップの役割を果たすことができる。
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