ハーバード大学BerkmanセンターfellowのBruce Schneier氏は、次のように述べておられます。
「リスクについて、次の分野で研究が行われている。行動経済学、行動財政学、リスク心理学、リスク知覚、神経科学」
「安全はトレードオフ*である。安全にはコストがかかる。安全には時間がかかる」
「米国国内で毎年4万人が交通事故で死亡する。世界全体で毎年数百人が航空機事故で死亡する。このことを知っている者は、自動車より飛行機を恐れるであろうか。もし、そうなら、それはなぜか」
「我々の本能的なリスク認識システムは、数百万年にも及ぶ進化の結果でき上がったものである。一般的に言えば、それは良くできており、我々の生存を可能にしてきた」
「我々のリスク認識システムは、次のようなバイアスを持っている。
・新奇なもののリスクを大きく評価し、なじみのもののリスクを小さく評価する*
・まれにしか起こらないもののリスクを大きく評価し、その逆を小さく評価する
・我々に利益をもたらすもののリスクを小さく評価し、その逆を大きく評価する
・コントロールできないもののリスクを大きく評価し、その逆を小さく評価する
・急に起きたことのリスクを大きく評価し、その逆を小さく評価する
(以下、略)」
・新奇なもののリスクを大きく評価し、なじみのもののリスクを小さく評価する*
・まれにしか起こらないもののリスクを大きく評価し、その逆を小さく評価する
・我々に利益をもたらすもののリスクを小さく評価し、その逆を大きく評価する
・コントロールできないもののリスクを大きく評価し、その逆を小さく評価する
・急に起きたことのリスクを大きく評価し、その逆を小さく評価する
(以下、略)」
「我々は、『楽観性のバイアス*』を持っている。事故は他の人に起きるのであって、自分には決して起きないと考えている」
(以下は私のコメントです)
*トレードオフ
トレードオフというのは、「あちらを立てれば、こちらが立たない」という関係のことです。原発をやめようとすれば、二酸化炭素の排出量が増えてしまうというような関係です。安全対策を行うと通常はお金が減ってしまいます。
*楽観性のバイアス
事故で死亡する人から見れば、そのようなことは、これまでに1回も起きたことがなかったのです。また、事故で死亡した人は、自分の体験を人に伝えることができません。
若い男の人は、リスクを恐れません。リスクを冒しても、大きな獲物を獲得すれば、子孫の繁栄がもたらされると考えます。遺伝子の計算では、死亡する確率が2分の1でも、子孫の数が2倍以上になるのなら、引き合うと考えます。若い男の人が、危険を軽視するのは、このように、進化心理学的に説明されます。しかし、子孫の数は、未来のことでどうなるか分かりません。現在の危険を冒さないのがお勧めです。危険を軽視する本能(直感)を修正するのがお勧めです。
逆に悲観性のバイアスもあります。物事を悪く受け取るというバイアスです。大昔は、敵襲や被食に備えるためには、わずかな異変も、深刻に受け止める必要がありました。ポジティブ心理学を創始したセリグマン教授は、「多くの患者は、つらい出来事に心を奪われた状態が続いて、いつまでも不幸な状態が続いている」と述べておられます。現代は、敵襲も被食も、あまりないので、万事を悪く受け取る必要は少なくなっています。世界観をもう少しポジティブに修正した方が、うまくいくかもしれません。
*新奇なバイアス、なじみのバイアス
ダイオキシンは、人体に有害な物質ですが、当初考えられていたほどの毒性は無いことが分かって来ました。しかし、新奇なものであるので、リスクは過大に評価される場合があります。タバコやアルコールや砂糖は、人体に有害ですが、なじみがあるので、リスクは過小に評価されます。CMの効果の一つは、新奇なものを、なじみのあるものに見せかけることです。
前回、引用した電力中央研究所の小松氏の文章も、環境ホルモンやダイオキシンを、このような文脈で使用しておられます。ダイオキシンのリスクを正しく評価しておられます。また同氏は、独身は非常に大きいリスクであると、正しく評価しておられます。同氏のリスク評価は、このように優れています。
しかし同氏の、「隕石のリスクが過大評価されている」という意見には賛成できません。月にある無数のクレーターは、過去に隕石が落下してできたものです。直径100mの隕石が太平洋に落ちると高さ3000mの津波が生じるという推定を、私は見たことがあります。ただし、もっと低い津波が生じるという推定を見たこともあります。1994年に木星に彗星が衝突して、小型望遠鏡でも観測されました。また2009年にも木星は直径500mほどの小惑星と衝突したと考えられています(Wikipedia 「木星への天体衝突」)。2011年には、直径400mの小惑星が、地球から32万kmのところを通過しています(Wikipedia「地球近傍小惑星」)。直径400kmの隕石が地球に衝突した場合のシミュレーションを、NHKが行っています。
また同氏は、食べ物について、フードファディズムが過大評価の例であるとしておられます。(フードファディズムとは、食べ物が健康に過大な影響を持つと信じることです)。食べ物は、現に健康に大きな影響を持っています。また同氏は、食品添加物のリスクは過大に評価されているとしておられます。しかしそれは、発がん性が弱いというだけです。食塩や砂糖や人工甘味料やパーム油も食品添加物であり、健康に大きな悪影響を与えています。それらは、高血圧や糖尿病や心疾患の原因になります。前々回に申し上げたように、BBCの実験によれば、野菜と果物とナッツと魚だけを食べた9人の被験者は、わずか12日で血圧は正常化し、コレステロールは23%下がり、体重が4.4kg減ったのです。