ハーグ条約は1年前の4月1日より効力発生しています。最近、この1年間を総括する記事がいくつか出ています。

(1)Japan Times紙 2015年3月26日の記事

「日本の外務省は、次のように述べた。『ハーグ条約に関して、これまでに110件の申し立てがあった。外国から日本へ子どもを連れ去られて返還を求めたケースは25件あり、そのうち3件で子どもは外国へ返還された。日本から外国へ子どもを連れ去られて返還を求めたケースは16件あり、そのうち4件で子どもは日本へ返還された。残り69件は、子どもとの交流についての申し立てであった。ハーグ条約の発効により、日本へ連れ去られる子どもの数は、顕著に減った』」


(2)Stars and Stripes「星条旗」 2015年3月27日の記事

「1994年以後に米国から日本へ連れ去られた400人の子どものうち、この1年間で米国へ返された子どもは、1人もいない(ただし、返還の判決は、2月に1つ出ている)」

「4月に、アメリカ合衆国の担当部局は、国境を越える『子どもの誘拐』についての年次報告を発表する」

「Jacob氏は、アメリカ合衆国担当部局の子ども問題のアドバイザーであるが、次のように述べた。『私は、6月に日本を訪問して、ケネディ大使と日本政府担当者と共に、年次報告の内容について議論する予定である』」

「日本の外務省の担当官は、次のように述べた。『親権と交流の争いに対処するために、改善したシステムを4月に導入する予定である』」


(3)日本に子どもを連れ去られたMorehouse氏の米国議会 外務委員会における証言 2015年3月25日

「5年前に子どもを連れ去られた。全く会えない状況は、ハーグ条約ができても、何ら変わっていない。これは、私と同じような境遇の父親たちも同じである。日本政府が、人間の権利や家族の権利を蹂躙している現状は、ハーグ条約では変わっていない。ゴールドマン法による制裁措置を検討すべきである。4月下旬の安部首相の訪米時に取り上げるべきである」


(4)NHKワールドの記事 (わずか2行だけの記事です) 2015年3月28日の記事

「日本の外務省は、国境を越える親権争いへの対応を良くするために、システムを改善する予定である」

(5)CRCの各意見へのリンク

例えば、2015年3月14日の次の記事にリンクしています。

「ハーグ条約は、子どもを失った父親たちには、ほとんど役に立たないことが判明した」
http://www.stripes.com/news/pacific/child-abduction-treaty-providing-little-help-for-fathers-of-lost-kids-1.334340


(以下は私の意見です)

ハーグ条約の実施法には、子の返還事由と返還拒否事由が列挙されています。
ハーグ条約の実施法の第二十八条の六の三には、返還拒否事由の一つが書かれています。
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/strsearch.cgi
「申立人又は相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情の有無」

つまり、「連れ去った者が、元の居住地で、子を監護することが困難であるのなら、子どもを返還しない」ということです(ただし、裁判官は一切の事情を考慮して決めるという譲歩が付けられています)。

この部分は、元の法律案では、次のように書かれていました。
「連れ去った者が常居所地国において逮捕・刑事訴追されるおそれがあること」
「連れ去った者が常居所地国において適法な滞在資格が得られないおそれがあること」
http://www.moj.go.jp/content/000084694.pdf
この部分は修正されて、現在の法律のような当たり障りの無い表現になりました。

この他に、連れ去った者が常居所地国において、生活困難である場合にも該当する可能性があります。

米国から違法に子どもを連れ去れば、刑事訴追されますから、大多数の人は、子どもを米国で監護することは困難になります。つまり、子どもは返還されないということです。子どもが返還されるのは、特殊なケースだけであると考えられます。外国の人々は、日本がハーグ条約を批准したことに気をとられ、この点をしっかり把握していない可能性があります。

また、同法律の同条の五には、次のように書かれています。「子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること」

連れ去った親は、子どもに帰りたくないと言わせるように最大限の働きかけをするでしょう。子どもへの精神的コントロールを強めます。精神的コントロールは、虐待の一つの兆候です。

子どもを両方の親が育てることの重要性を説明することなく、条約の締結だけを強いると、このように結果になります。これでは、子どもの奪い合いを、国が代わって行っているだけです。子どもが両方の親に充分に関与するための努力を行う必要があります。