生物に対して、刺激を与えてその反応を見ることは、自然科学の範囲内ですが、心は複雑であり、未知数が多すぎて方程式が解けないような状態です。しかし、人文科学や社会科学の他の研究対象と同じように、心について全く何も分からないわけではなく、傾向を調べたり、推論を行うことは可能です。精神分析学は、「風変わりな異説」ではなくて、心に関する「一次的な近似」であると私は考えています。
超自我とは、心の中の倫理観とか良心に相当する部分です。
前回、当ブログで申し上げましたように、フロイトは次のように述べています。「少年期の超自我は、父親との同一視により、(父親の超自我を)内在化させて形成される」。子どもは、主に、父親との遊びを通して、ルールが存在することや、協力や競争の仕方を学びます。
もし、少年の近くに父親がいないのであれば、少年の超自我の形成に支障を来たします。
少年は、近くに父親がいない場合には、代わりに母親の超自我を取り込むしかありません。しかし、フロイトは、女性の超自我については、次のように述べています。「女性の超自我は、感情に動かされて気ままである。女性が行う判断は、愛情や敵意のような感情から、多くの影響を受けている」。女性の超自我は、男の子どもにとっては、不完全なものです。
それで例えば、ピッツバーグ大学のDaniel S. Shaw教授らは、「親が離婚した子どもは、非行を行う割合が、より多い」と述べておられます。
http://www.pitt.edu/ppcl/Publications/chapters/children_of_divorce.htm
http://www.pitt.edu/ppcl/Publications/chapters/children_of_divorce.htm
親が離婚した子どもの成人後の社会的地位は、平均すれば、両親がいる子どものそれより高くありません。
(以下は、私の推論です)
100万年から200万年前には、人類は、数家族からせいぜい200人までの小集団で暮らしていました。男は協力して狩猟採集を行いました。
http://en.wikipedia.org/wiki/Hunter-gatherer
http://en.wikipedia.org/wiki/Hunter-gatherer
野生動物の捕獲は簡単ではありません。優れたリーダーの指示の元に、協力して行動を行う必要があります。分担して、自分の役割を果たさなければなりません。狩猟を行う際に守るべきことがあります。収穫物の分配も、円滑に行う必要があります。また安全上の要請があります。「○○は危険だから、してはならない」という注意を守らなければなりません。狩猟中に一人がケガをすれば、狩猟を中止して、ケガ人を住居地まで運ばなければならないかもしれません。また、分配に際して、無限の争いを防ぐために、男性内部の序列(社会性)が必要です。隣の部族との対立もあるでしょう。
こうした要請が、男性の超自我を発達させたと考えられます。男の子は、父親の姿を見て、それを真似して取り込んで行きます。男の子は、一人前になるために、身近な大人から一つずつ教えてもらう必要があります。それをするのが、父親の役割です。父親だけは、自分の遺伝子を繁栄させるために、手間がかかって報酬がないことをしてくれます。
英国国営放送BBCの「父親の生物学」は次のように述べています。「父親が子どもに充分に関与すれば、子どもは学校で自信を持ち、忍耐強く、学習内容に興味を示す。また非行が少なく、犯罪者リストに載ることが少ない」(37分ごろ)。
https://www.youtube.com/watch?v=XFA1ZDqgpEI
狩猟採集時代の女性の役割は、比較的安全な場所にいて、育児や家事を行うことでした。女性たちの間での協力関係は必要でしたが、危険な場所で分担して狩猟を行うための精神的な体制は必要ありませんでした。
男の子は、身近に父親がいない場合には、外界の危険とその対処について学ぶことができません。社会の仕組みを学ぶことができません。男の子が、外界で一人前に暮らしていくためには、先人の知恵を学ぶ必要があります。それを知らないのは、大きな損です。往来を通行するのなら、交通ルールを守らないのは損です。社会の規則を守らなければ、組織の一員として、自分の役割を果たしていくことができません。
男の子は、父親の近くにいて、父親を見て、模倣により超自我を取り込む必要があります。そして、安全のための規則を守る必要があります。
(翌日(H27.2.9)追記)
男性と女性では、時間への対応に差があります。
(1)上記のBBC「父親の生物学」は、次のように述べています。「父子家庭の子どもは、母子家庭の子どもより、朝食や夕食を、毎日決まった時間に食べることが多い」。(36分27秒ごろ)。
(2)軍隊では、起床ラッパで一斉に起きて、消灯ラッパで一斉に寝るようです。
(3)映画「サウンド・オブ・ミュージック」の中で、父子家庭のフォン・トラップ大佐は、「就寝時間は、厳格に守られなければならない」と述べています。Bed time is to be strictly observed.