砂糖と虫歯の関係について、以下のようにいくつかの論文を読みました。
 
(1)「Diet,nutrition and the prevention of dental of dental diseases」、WHOの「栄養と口腔衛生の協力センター」に所属のPaula Moynihanら
http://www.who.int/nutrition/publications/public_health_nut7.pdf

5歳と6歳における虫歯の数(DMFT)と砂糖消費量のデータが得られた23ヶ国と、12歳におけるそれらが得られた47ヶ国のうち、1日1人当たりの砂糖消費量が50g以下の国21ヶ国では、虫歯の本数(DMFT)は一貫して3本以下であった(Sreebnyによる)。

1982年と1994年の12歳の虫歯の本数と砂糖消費量のデータが得られた67ヶ国のうち、虫歯の本数(DMFT)が1本以下であったのは、砂糖の消費量が1日1人あたり10g以下の17ヶ国であった(Ruxtonらによる)。

孤立した場所で、伝統的な生活様式を行い、砂糖の消費量が少ないところでは、虫歯は非常に少ない。例えば、アラスカのイヌイット、エチオピア、ガーナ、ナイジェリア、スーダン、セントヘレナ及びトリスタン・ダ・クーニャ島、などがその例である。

デンマークのチョコレート工場の労働者は、造船所の労働者と比べて、虫歯の数が有意に多く、失う歯の数も有意に多い(Petersenによる)。

歯科医の子どもや、厳格な食事法を行う施設の子どもや、遺伝性果糖不耐症の子どもは、砂糖の消費が少なく、虫歯が少ない。

ニュー南ウェールズのHopewood House子どもの家では、厳格な菜食主義が行われていた。牛乳は飲めるが、砂糖や精製小麦粉の消費は少なかった。虫歯の数は、同じ地域で、同じような社会経済的な環境にある子ども達と比較して、ずっと少なかった。

Turka Study は、1970年代にフィンランドで行われた。12歳から53歳の男女125人を3つのグループに分けて、25ヶ月間にわたって、観察した。ショ糖で甘くした食事を摂るグループ、果糖で甘くした食事を摂るグループ、キシリトールで甘くした食事を摂るグループの3つである。増加した虫歯は次の表のようである。

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動物実験では、いずれの単糖類、二糖類も虫歯を作るが、ショ糖が最も多く虫歯を作ることが示されている。
著者は、多くの証拠を挙げて、虫歯の形成に関与する要因について、次の表のように結論しています。
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(2)「Sugar Consumption and Caries Risk: A Systematic Review」、ミシガン大学教授Brian Burt ら
http://www.panelamonitor.org/media/docrepo/document/files/sugar-consumption-and-caries-risk-a-systematic-review.pdf

砂糖の消費と虫歯の発生の関係を調べた論文のうち、1980年から2000年までの間に、MEDLINEとEMBASEに現れた英語の論文は、809編あった。フッ素を中等度以上利用している国の論文に絞り、さらに、論文を100点満点で採点し55点以上であった論文36編を詳しく検討した。相対危険度1.5と2.5を境目として、砂糖の消費が虫歯の発生に強い影響を与えるか、穏やかな影響を与えるか、弱い影響をあたえるかの3つに分類したところ、「強い」は2編、「穏やか」は16編、「弱い」は18編であった。フッ素を充分に利用していても、砂糖の消費は、虫歯の発生に影響を及ぼしていると分かる。

(3)「Tooth decay - How/Why does it form?」、Animated-Teeth.com
http://www.animated-teeth.com/tooth_decay/t2_tooth_decay_caries.htm

虫歯を作るミュータンス菌や乳酸桿菌は、ショ糖(砂糖)、ブドウ糖、果糖、乳糖、調理したデンプンを利用する。

(4)「Comments on the WHO Draft Guideline: Sugars intake for adults and children.」、ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院 James 名誉教授ら
http://wphna.org/wp-content/uploads/2014/05/2014-04-NUGAG-Philip-James-Aubrey-Sheiham.pdf

これは、WHOの計画案についてのコメントです。WHOは、砂糖の消費を摂取エネルギーの5%以下にすることを勧めています。

虫歯は、もっぱら砂糖によって作られる。

もし多くの量の砂糖が食品や飲料に入れられるのであれば、毎日歯を磨いても、虫歯の発生を防ぐことはできない。

フッ素は、虫歯の発生を防ぐのではなく、虫歯のトラブルを約10%減らすだけである(Sladeら、2013年)。

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1960年代のナイジェリアのように、すべての人々が砂糖をほとんど摂っていないのであれば、虫歯はほとんど発生しない。当時のナイジェリアでは、歯を磨かないにもかかわらず、あらゆる年代の98%の人は、虫歯が全く無かった。

収入が低いか中等度の国で、飲料水のフッ素化がまだ行われていない国(例えば、バングラディッシュ、コロンビア、中国、エチオピア、ガーナ、モザンビーク、ネパール、ナイジェリア、ラオス、タンザニア、ウガンダ、ベトナム)は、1人1日当たりの砂糖消費は、摂取エネルギーの5%ほどであるが、12歳時の虫歯はすでに多い。子どもたちの約50%は虫歯を持っている(WHO、2004年)。

我々は、摂取目標を『加えられた砂糖』を摂取エネルギーの0%にすることを提案する。なぜなら砂糖は全く必要の無い食品であるからだ」。

(5)Wikipedia英語版「Sucrose」のうち「虫歯」の項
http://en.wikipedia.org/wiki/Sucrose#Tooth_decay

歯垢(プラーク)の細菌は、全ての六炭糖の単糖類と、六炭糖を基盤にした二糖類から、、酸を作ることができる。また、ミュータンス菌とサングィニス菌は、細胞外の酵素により、ショ糖よりグルカンを作る。グルカンは、デキストランに似た多糖類であり、菌が歯の表面に粘着して、歯垢(プラーク)の厚い層を作ることを可能にする。厚い歯垢(プラーク)の奥の無酸素的な環境では、菌は酸を作り、虫歯を発生させる。

(6)「Extracellular Polysaccharides & Caries」、Bite Sized Tutorials
http://www.ncl.ac.uk/dental/oralbiol/oralenv/tutorials/polysaccharides/eps_and_caries.htm

(グルカンのような)細胞外多糖類は、ミュータンス菌が歯の表面に粘着するのを助ける。ヒトの虫歯の大半は、歯の平滑な表面にできるのではなく、歯の裂溝にできるので、粘着の意義は少ないが、プラークの構造が虫歯の発生に与える影響は大きい。

(7)「Sugar and Tooth Decay」、Elmhurst大学
http://www.elmhurst.edu/~chm/vchembook/548toothdecay.html

ショ糖のような糖を摂取した後では、食後すぐに歯を磨いたとしても、粘着性の糖タンパク質(炭水化物とタンパク分子が結合したもの)が、歯の表面に付いて、歯垢(プラーク)を形成し始める。同時に、ミュータンス菌がその糖タンパクに付着する。口腔内には多くの菌がいるが、ミュータンス菌だけが虫歯を作る。

次の段階では、ミュータンス菌は、生きるエネルギーを得るための解糖の過程を行う際に、果糖を利用する。無酸素の環境における解糖の最終産物は、乳酸である。この乳酸は、歯の表面のpHを下げて、歯のエナメル質のリン酸カルシウムを溶かし、虫歯の穴を作り始める。

ミュータンス菌だけが、菌の表面にグリコシル・トランス・フェレースという酵素を持ち、ショ糖から果糖を放出させる際に、ブドウ糖を重合させる。この酵素は、引き続き多くのブドウ糖分子を重合させて、デキストランを作る。このデキストランによりミュータンス菌は、歯のエナメル質に強固に粘着して、歯垢(プラーク)を形成する。

(8)「NIH Consensus Development Conference on Diagnosis and Management of Dental Caries Throughout Life」、William Natcher、2001年
http://consensus.nih.gov/2001/2001DentalCaries115Program.pdf

砂糖が虫歯の原因であると認識されるようになってから、長い年月が経過している。しかし、砂糖と虫歯の関係は、変化しつつある。アメリカ合衆国における全ての糖の消費は、この25年間に増加しているが、永久歯の虫歯の有病率は減少している。この変化は、フッ素が広く普及した結果であろう。

恒常的にフッ素を利用していない地域では、虫歯の発生に、砂糖の消費は、より大きな影響を与える。フッ素の使用が充分な地域でも、砂糖の消費は、たいていの人の虫歯発生に対して、中等度から穏やかな危険因子となる。それゆえ、過度の砂糖消費を避けることは、虫歯予防の、最も重要ではないとしても、必要な一部分である。

(9)「A reappraisal of the quantiative relationship between sugar intake and dental caries: the need for new criteria for developing goals for sugar intake」、Aubrey Sheihamら、BMC Public Health 14:863、2014年
http://www.biomedcentral.com/1471-2458/14/863

総エネルギーに占める砂糖消費の割合が0%から10%までは、砂糖消費と虫歯には、強固な対数線形の関係がある。総エネルギーの10%の砂糖消費では、コストのかかる虫歯のトラブルをもたらす。公衆衛生の目標として、フッ素が充分に使われていたとしても、砂糖消費は、理想的には総エネルギーの3%以下、より実用的には5%以下にする必要がある。

(10)「Sugar Is the Only Cause of Tooth Decay, Study Says」、Time紙、2014年9月16日
http://time.com/3380563/sugar-tooth-decay/

これは(9)の論文に対するTime紙の解説記事です。次のような文を引用しています。
アメリカ合衆国では、学校へ行く子どもの60~90%は虫歯を経験し、大人の92%が虫歯を経験している。しかし、ナイジェリアでは、1日の砂糖消費量は1人当たり2g程度であるが、全ての年代で虫歯を持つのは2%ほどである。

(11)「Sugars and dental caries」Riva Touger、Am J Clin Nutr 2003:78(suppl)881S
http://ajcn.nutrition.org/content/78/4/881S.full.pdf+html

虫歯の発生には多くの要因が関与するが、あらゆる年齢層において、砂糖の摂取は、虫歯の発生と直接的な関係があると、多くの研究は結論している。