前にも申し上げたように、国立がんセンターは、がんを防ぐための12か条(旧版)で、「焦げた部分はさける」と述べています。また、現在のホームページ上でも、次のように述べています。「大腸がんは、保存・加工肉の摂取量の多い人にリスクが高いことが認められています。これは、動物性脂肪による細胞分裂促進作用や、動物性タンパクの加熱により生成される発がん物質等によるものと推定されています」(「予防・検診」、がんの発生要因、食生活とがん、「部位別に見たがんと食生活の関連」)。
 
米国の国立がん研究所 National Cancer Institute は、「研究者たちは、次のことを見つけた」と述べています。「よく焼けた肉、油で揚げた肉、直火で焼いた肉の消費が多い人は、大腸がん、膵臓がん、前立腺がんのリスクが高い」(Chemicals in Meat Cooked at High Temperature and Cancer Risk)。それで、「米国やヨーロッパで、この問題についての研究が、現在、進行中である」と述べています。
 
コゲとは、食物が熱により分解してできたものです。デンプンやタンパク質などが熱で分解すると、残った炭素により、黒っぽく見えます。タンパク質やDNAは巨大な分子ですが、熱を加えると、分子の運動は激しくなり、ついには壊れてしまいます。そうして、タンパク質やDNAの破片がたくさんできます。いろいろな壊れ方をして、いろいろなものができます。
 
熱でばらばらになったタンパク質やDNAの一部分(破片)の中には、我々の体の中のDNAと反応するものがあるかもしれません。もしあるとすれば、それはDNAの情報を書き換えることになります。がんは、DNAの何ヶ所かが書き換えられて、いくつかのがん遺伝子のスイッチが入ってしまうことにより出来ます。先天性代謝障害では、DNAのたった1ヶ所が書き換えられたために発症する場合があります。
 
だから、コゲの中に発がん物質が出来たとしても、何の不思議もありません。実際、コゲの中から発がん物質が検出されています。ただし、実際問題として、コゲの発がん性は、あまり強くありません。コゲを1回食べたら、すぐにがんが出来るわけではありません。しかし、なるべく食べないのがお勧めです。「ネズミに2年間毎日コゲを食べさせたが、がんは出来なかった」と述べている人がいますが、その人も、ありとあらゆるコゲが安全であることを証明しているわけではありません。また、そういう人も、コゲの中に発がん物質ができること自体は認めています。
 
なるべくコゲを食べないのがお勧めです。火を通すのは、直火(700~800℃)や油(200~300℃)よりも、沸騰水(100℃)がお勧めです。海水魚なら刺身が最も良いことになります。米国国立がん研究所NCIも、なるべく低い温度で火を通すように勧めています。
 
熱によってキツネ色になった食品も有害であることが、最近判明しています。糖とタンパク質が高温で結合してキツネ色の物質ができる反応はメイラード反応と呼ばれています。タンパク質の代わりに、アミノ酸や脂肪でも、メイラード反応が起きてキツネ色の物質ができます。なお高温でなくても、37℃の体内でも、糖の濃度が高く、反応する時間が長ければ、メイラード反応は起きます。
 
糖と蛋白が高温で結合したものは、最終的にはAGE(最終糖化産物)Advanced Glycation Productとなり、これが血管を老化させます。そうして、脳卒中や心血管疾患の原因になります。風味は良くなるが、生成されるものは非常に有害であるということです。
 
コゲを好む人がいます。から揚げなど、茶色の濃いものを好んだり、直火で焼いたものを好んだりします。熱分解によって、比較的低分子のものがたくさん生成され、それが舌の味蕾で検出されて、美味しいと感じるのです。(でんぷんより低分子の糖の方が美味しいと感じられます。タンパク質より低分子のアミノ酸の方が美味しいと感じられます)。
 
人や動物にとって「好ましい」というのは、「そうする方が生命維持にプラスになるので、遺伝的にそのような方向づけをしている」ということです。
 
人間が火を使うようになったのは、50億年を超える進化の時間からすると、ごく最近です。人間の感性が変化するほどの時間が経っていません。
 
今、熱で分解した食品を食べて、「マズイ」と感じる人がいたとします。そして、この感性が遺伝的なものであるとします。その人は、「オイシイ」と感じる人よりも、生存確率が上であるはずです。例えば、1年あたりで1.0000001倍ほど上であったとします。このようなわずかな差であっても、この数を累乗する極限は無限大です。例えば、この数を電卓に入れて、×=、×=、×=のように計算するなら、この×=の操作を28回行うと、電卓に入る最も大きい数を超えてオーバーフローします。十分な時間が経過すれば、生存に最も有利な好みを持つ個体だけになります。
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野生の動物は栄養学の知識を持っていませんが、必要な栄養素を必要なだけ摂取することが可能です。本能に従っているだけでうまくいくのです。これは進化の偉大な力です。
 
人間は最近火を使うようになりました。火を使う利点はあります。例えば寄生虫を防ぐことができますし、細菌を死滅させることができます。しかし、火を使うマイナスもあります。例えば火を使うと発がん物質ができます。それを、本能で避けることはできません。新しいものに対しては、科学の力で、合理的に理知的に判断する必要があります。
 
また、「人に対して、人はオオカミである」という表現があります。例えばタバコ会社は、発がん物質を多く含むタバコを作っています。小売業者は、そのタバコを売って利益を上げています。お客さんががんになって死んでも構わないということです。日本で1年間に10万人の人がタバコによるがんで死んでいますが、別に気にならないということです。そういうことが可能であり、堂々と行われているのです。肺がんになった人がタバコ会社を訴えても、日本ではこれまでに、1円のお金も支払われていません。
 
コゲに発がん物質が含まれていても、気にならない人もいるでしょう。キツネ色の食品が体に悪くても気にならない人もいるでしょう。砂糖を使用する大企業は、高額の宣伝費を使っています。砂糖を多く含む食品は好ましいものであると、繰り返し宣伝しています。利益と宣伝費が、ほぼ同額である企業もあります。それだけ多くのお金を使って、砂糖が好ましいものであると主張する必要があるのです。CMにお金を使うのは、それなりの効果があって、企業の収入増加に貢献をしているということです。ただしCMの効用は他にもあります。企業は、慈善事業ではありません。
 
CMを見てそれで健康を害しても、誰も何もしてくれません。自分が苦しい思いをして、寿命を縮めて、大切なお金を病院に支払うだけです。
 
食品産業は、大学の栄養学の研究者に対して、多くの研究費を提供しています。またテレビ局にも多額の番組制作費を提供しています。また政党や議員にも献金しています。
 
これが、現実です。自分の身は自分で守るしかありません。