私と砂糖
私は、森永砒素ミルクを飲んだかもしれない世代です。当時、森永乳業は、「頭の良い子に育てよう」というCMを行っていました。森永乳業のドライGというミルクには、ガラクトースが入っており、それが子どもの頭を良くするのだそうです。しかし、どのミルクにも乳糖が含まれており、乳糖は、消化吸収されると、すぐに半分がガラクトースになります。森永乳業のミルクに砒素が混入したことにより、130名の赤ちゃんが亡くなりました。私は、森永乳業と雪印乳業の製品を購入していません。買うのは、明治乳業か地元の乳業の製品です。
私は小学校1年のころ、毎日、肝油ドロップを1個服用していました。栄養補給目的でした。ゼリー状で、砂糖漬けになっていました。甘くて美味しいので、毎日楽しみにしていました。あるとき、肝油は砂糖の入っていないタイプに代わりました。それを口の中に入れると、ひどい吐き気がしました。私は、その気分の悪さを、長い間覚えていて、類似のものを長い間食べることができませんでした。おそらく、ビタミンAか何かの中毒になっていたのに、砂糖のせいで食べ続けていたのです。
中学の頃、薬局でジアスターゼ(アミラーゼ)を買ってきて、デンプンに混ぜて、体温ほどに保って、麦芽糖を作りました。麦芽糖は二糖類で、ブドウ糖が2分子結合したものです。そこまではうまく行きましたが、煮詰めて重曹を入れてカルメラという砂糖菓子を作るところでは、いつも失敗しました。
東京にいた頃、紅茶に砂糖をたっぷり入れて何杯も飲んでいました。「頭が疲れた時に砂糖を補給すると頭の疲れが取れる」というような話を信じていたのです。薬物依存症の人に禁断症状が出ているときに、その薬物を摂取すると、禁断症状は瞬時に消えます。不眠症や虫歯になりました。
その頃、自分で料理する時には、何にでも砂糖を少し入れていました。たとえば、てんぷらを作るときには、衣に砂糖を少し混ぜました。そうすると味が良くなると思っていました。
私は今は、砂糖の入ったものを食べていません。ただし、毎日イカナゴの釘煮を大さじに1杯ほど食べています。これには砂糖と醤油が入っていますが、砂糖の量はWHOが推奨する1日25g以下です。また、果物と牛乳(低脂肪乳)を摂っていますが、「(こうしたものからの糖を)減らす必要は無い」という英国政府の説明を信じています。
低糖質食と砂糖
江部康二先生の低糖質食では、砂糖の入ったものを食べません(「糖尿病がどんどんよくなる糖質制限食」)。砂糖を制限する観点からすれば、これは理想的な良い食事です。また低糖質食では、精製白米や精製小麦から作る食品を食べません。これも、血糖を上げないという点からすれば、理想的です。また糖質制限食では、食物繊維を摂ることができます。食物繊維は、腸内細菌により消化され、大腸から吸収され、エネルギー源として使われます。
米国政府やWHOは全粒穀物の摂取を勧めていますが、低糖質食では原則的に食べないことになっています。この点が異なっています。
味覚を偽るのは、通常はデンプンにアミノ酸(グルタミン酸)を混ぜて、蛋白質のような味にするという形で行われます。だから、糖質をやめると、味覚の偽りは少なくなります。この観点からしても、糖質制限食は、良いものであると判断できます。砂糖や小麦粉は1kgで200円ほどですが、肉や魚は1kgで2000円ほどです。値段が10倍ほど違います。 羊頭狗肉という言葉がありますが、たんぱく質の味はするけれど、中身は安い小麦粉や砂糖や化学調味料です。
江部先生によれば、「(糖質制限食は)簡単に言えば、総摂取エネルギー量や脂質の摂取量などは気にせず、主食となるごはんやパン、麺類などを抜いて、おかずをたっぷりとる方法です」(P84)とのことです。そして「注意するのは糖質量だけ」という見出しがついています。このように、江部先生の糖質制限食では、糖質を制限する以外には、あまり制限しません。例えば、総カロリー制限や脂肪制限や食塩制限を行いません。アルコールも蒸留酒なら摂取しても良いことになっています。
しかし、低糖質食の実例(口絵の写真)を見ると、味噌汁、おかず4品です。もしこれを、町の食堂で食べたとすると、かなりの塩分量になります。2g+1.5g×4=8gくらいでしょう。1日3回食べたら24gほどです。これでは、糖尿病が軽快しても、高血圧、胃がん、脳卒中が増えるでしょう。アルコールについては、CDCは後述するように、1日に日本酒なら1.3合以下に制限できない人は禁酒せよと述べています。江部先生は、蒸留酒はとくに制限せず、「1日に2、3杯程度はOK」(口絵)とのことで、「泥酔するほど飲まないでください」(p124)と書いておられます。もし35度の焼酎をコップ3杯飲むとしたら、日本酒で6合飲むことになります。アルコールは依存性の毒物ですから、少量に制限するのがお勧めです。
過量に摂取してしまう食品は、糖質だけではありません。食塩や化学調味料やアルコールなどにも、それなりに問題があります。
前に記したように、メイヨー・クリニックの文章は、「(低炭水化物ダイエットを)長期に継続した場合に、どのようなリスクがあるかについては、現在不明である」と述べています。低糖質食は別の病気を増やす可能性があります。江部先生の主張も、「糖尿病が改善した」というだけで、「他の病気を含めて長期予後が改善した」というデータを持っておられないようです。岡田先生の疑問も、この点にあります。
砂糖や白米を減らすだけでなく、塩分を減らし、アルコールを減らし、他方で、食物繊維を増やし、必須脂肪酸を増やすというような制限が望ましいと私は考えます。もし主食として玄米を食べるのなら、摂取エネルギー量で55%ほどの分量は、塩分が0gに近い形で摂取することが可能になります。