カナダ法務省の一般向け文書「交流の困難さへの対応」という文書を読みました。
http://www.justice.gc.ca/eng/rp-pr/fl-lf/famil/2003_5/toc-tdm.html

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(1)現状

30年間の離婚研究により明らかになったのは、たいていの状況において、子どもは、親の離婚後も、双方の親との交流から利益を受けるということである。
 
しかし、家庭が壊れるとき、その結果として生じる精神的苦痛は、時には強烈であるので、片方または両方の親は、自分たちのどちらが正しいかということに心を奪われて、子どものニーズを見過ごすのである。子どもは無視され、争いに巻き込まれ、他の親を攻撃する手段として利用される。
 
養育計画の決定、特に子どもが過ごす場所のスケジュール作りは、しばしば両親の間に争いを引き起こす。双方の親の間にある未解決の争いは、親子関係にとって、重大な影響を及ぼす。また、法的手続きの敵対的な傾向により、交流の困難さを引き起こすカップルもいる。
 
交流の困難さは、次の2つのことに結びつく。一つは疎外である。疎外は、親子関係の崩壊を招く。もう一つは、離婚の経過中に子どもの意見が聞かれず、子どもが自分自身の人生をコントロールできなくなることである。
 
また、親たちは、しばしば、法のシステムに、非現実的な期待を持っていることがある。親たちに友好的に繰り返し説明すれば、裁判所の審理の予想される結末や、法的過程の限界を理解するのに役立つかもしれない。
 
(2)交流が困難であることについて、諸氏は次のように述べている。
 
・ガードナーGardner
法的手続きにおける勝利を確実にするための方策として、片親疎外を行う親がいる。片親疎外は、子どもに対する精神的虐待である。子どもは、愛する親との関係を否定される。
 
・ジョンストンJohnston
いろいろな要因がある。例えば、子どもが非同居親との交流を嫌がる理由の一つは、忠誠心の葛藤を回避するためである。
 
・ストルツStoltz
もし、離婚があまり敵対的ではない方法で行われるのなら、交流への抵抗は少ないであろう
 
・ルンドLund
非同居親の対人技術の欠陥が、拒絶される理由の一つである。親に対する個人的セラピーや、争いを減らす調停が、解決策の一つである。
 
(3)対策

争いの少ない親は、子どもが何を必要とするかに焦点をあてた親教育を受けることで利益を得る。また、効果的なコミュニケーションの仕方を学び、争いを解決する方策を学ぶことにより利益を得る。
 
ガードナーは、疎外の激しいケースにおいては、親権を、疎外する親から他方の親へ移すべきだと主張した。この解決法は、いくつかの法制度で試されたことがある。鍵となる情報提供者が観察したところでは、10歳以上の子どもにこの解決法を適用しても、うまく行かないとのことであった。子どもは自分の足で意見を表明する。つまり、子どもが大きければ、逃げて、元の親のところに戻るのである。また、PAS(片親疎外症候群)という言葉を使うと、当事者の緊張は高くなる。
 
親同士で合意に達することができない場合には、親は何度も裁判所へ戻ってくる。しかし、裁判所としても、子どもの最善の利益に合致するような、長期に安定した解決を見つけるのは至難である。なぜなら、法的解決は、問題の一部分を設定するだけであるからだ。ジョンストンらは、争いの多い親にとって、裁判所の権威に基づく、精神的健康のための介入は、離婚後の関係を構築する際に、効果的な方策となり得ると述べた。その理由は、次の通りである。
    裁判の過程は、しばしば治癒に逆行する。そして疎外する親の主要な防御を強化
    する。すなわち、当事者の苦痛に目を向けず、自分たちの抱える問題について、
    他の親を責める傾向を助長する。もし、疎外する親が裁判で負けたとしても、彼
    らが悟りを得たり、治癒に至ることは考えにくい。おそらくは、公衆の面前で恥
    辱を与えられたことに憤慨し、彼らの視点を理解しない法制度の欠陥に憤慨する
    だけである(ギャリティら、1994年)。
 
従って、法制度の下で、早期に介入を行って、ケースごとに管理を行うことは必須である。親の立場が、強固になればなるほど、交流の困難さの解決は困難になる。不幸な皮肉であるが、子どもを守るために作られた法制度の過程の進行は遅いので、標的とされる親への子どもの信念は、こり固まってしまうのだ。
 
「時間」は、疎外する親にとって、最も強力な武器である。疎外する親が子どもに対して直接的に行うコントロールの時間が長くなるほど、疎外の影響は大きくなる。疎外する行動が長く行われるほど、回復の作業はより困難になる。
 
交流の困難さを減らすには、子どもを中心にする方法が良い。子どもを中心とする方策は、子どもの最善の利益を反映している。
 
Sturgeらは、交流の困難さを解決するために、子どもを中心とする方法をガイドする2つの原則を採用するように提唱した。一つは、親子交流の目的が、交流が子どもにもたらす利益に沿って明確化されていることである。もう一つは、交流が、その子ども独自のニーズに関連付けられていることである。鍵となる情報提供者は、次のような交流の設定が作られるように支援する。
  ・子どもが離婚後も両方の親と良好な関係を発展させることができる
  ・親同士の争いを最小にする
  ・現在ある争いを減らすことに貢献する
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今、国会で共同親権法が成立して、50%ずつの育児が行われることになったとします。そして、ハーグ条約のような強制的な移動が行われるとします。しかし強制的に子どもを連れてきたとしても、この文にあるように、子どもは、自分の足で、元のところに戻るかもしれません。強制的な移動に備えて、内的支配がむしろ強固に行われる可能性も有ります。共同親権法の制定が、最終目標ではありません。
 
法律や判決には、国家権力の発動の仕方が書かれているだけであって、それは当事者の精神の内面を規定するものではありません。
 
しかし、幸いなことに、最善の解決策があります。答えが有るのです。それは、多くの研究によって明らかになった方策です。敵対的な方法ではなく、短絡的な方法ではなく、勝ち負けでもありません。当事者が、コミュニケーションなどの対人関係の技術を習得し、子どものニーズを理解し、相手と協力して子どもを育てる方法です。子どもが、最も多くの利益を得る方法です。