ゴットマン博士は、カップルを観察して、5年後に離婚しているかどうかを、90%の確からしさで予測することができます。ゴットマン博士は、カップルを観察して、ポジティブな言動と、ネガティブな言動の比を調べます。ポジティブな言動とは、愛情の行為、ユーモアの共有、質問すること、積極的に興味を示すこと、エキサイトすること、喜ぶこと、支援すること、共感することなどです。ポジティブが5で、ネガティブが1のときが境目になります。それが5:1より小さいようであれば、ゴットマン博士は、離婚するであろうと予測します。

この比が、1対1でないのは次のような理由からだと私は考えます。ポジティブ心理学によれば、良いことに対しては、すぐに慣れてしまい、当たり前のことであるとして、有り難味が薄れてしまいます(幸福順応)。逆に、悪いことは、苦痛が生じるので、慣れることはありません。その都度苦痛が生じて、それは次第に蓄積して行きます。夫婦関係においては、外から観察した5:1くらいが、苦痛の蓄積により離婚するかどうかの境目になるというわけです。

ただし、ゴットマン博士は、ネガティブ・コミュニケーションも必要であると指摘しています。それもコミュニケーションの重要な内容の一部です。一緒に暮らしているのであれば、意見の食い違いは当然生じます。相手が正当である場合もあれば、自分が正当である場合もあります。自分が正当である場合には、ある程度のネガティブ・コミュニケーションを行うことは避けられません。もし、ネガティブ・コミュニケーションを全く行わないのならば、意見の食い違いや不都合は解消されないので、どちらかに苦痛が蓄積することになります。

ゴットマン博士は、どんなに仲の良いカップルでも、離婚するカップルと同じように、ネガティブ・コミュニケーションや争いは、同様に生じると述べています。しかし、仲の良いカップルでは、ネガティブな言動を上回る分量のポジティブな関係再構築作業が行われるのです。つまり仲直りの作業です。ゴットマン博士によれば、争いの最中では、比は5:1ではなく、0.8:1で良いそうです。つまりポジティブな言動が、ネガティブな言動と同じくらいあれば良いということです。暖かい感情が、怒りの分量に匹敵するくらいあれば良いわけです。
The Scientific Basis for The Oracas Island Couples' Retreat

ミシガン大学のピーターソン教授は、次のように述べています。「配偶者は、誰も読心術師ではないので、褒め言葉ははっきり口に出して言わなくてはならない。押し黙ったり、ぼそぼそとつぶやいたり、暗にほのめかしたりしても効果はないのだ。(中略)。相手を深く愛しているからこそ、その愛情から真摯な批判的反応が生まれてしまうことがあるかもしれない。しかし、常に建設的な非難を続けている場合には、関係性が危ぶまれる。相手があなたから受け取るメッセージがまさにそれだけだからだ」(ポジティブ心理学入門、p280)。

パーデュー大学のPoulsen博士は、夫婦が良好な関係を維持するために、次のようなことを勧めています。①相手との交流内容をすべて記録して、それを1週間後に集計して、ネガティブとポジティブの比を計算すること。②あなたが相手を好きである点を3つ書くこと。③相手と一緒に行って楽しいことを3つ書くこと。④相手と一緒に暮らす理由を3つ書くこと。⑤毎日、少なくとも一つ、ポジティブな考えを相手と共有すること。
A fine Balance: The Magic Ratio to a Healthy Relationships