「栄養学からの要請」という文章を書きました。
・全ての栄養素が必要であること
人間が生きていくためには、多くの栄養素を必要としています。自分で合成できるものもありますが、自分では合成できずに、食事として必ず外から補わなければならない栄養素(必須栄養素)もあります。
人間が生きていくためには、多くの栄養素を必要としています。自分で合成できるものもありますが、自分では合成できずに、食事として必ず外から補わなければならない栄養素(必須栄養素)もあります。
普段でも、ダイエット中でも、全ての必須栄養素を、必要とする分だけ摂取する必要があります。一つでも欠けると、欠乏症になります。欠乏が高度になると死亡する場合もあります。
「栄養学の歴史」島薗著によれば、明治12年に日本海軍の兵員5011中、脚気になった者が、1978名あり、うち57名が死亡したとのことです。また、別の統計によれば、1900年から1940年にかけて、日本の脚気による死亡者は、多くの年で10000人を超えていたとのことです。ビタミンB欠乏により脚気になります。ビタミンBが欠乏するだけで死亡することがあるのです。
Wikipedia「ヴァスコ・ダ・ガマ」によれば、インド航路発見の航海では、乗組員180人中、壊血病により100名が死亡したそうです。壊血病はビタミンCの欠乏症です。
日本の船では、お茶の葉からビタミンCを補給できるので壊血病は生じません。また、ヨーロッパの船は、パンからビタミンBを補給できるので脚気は生じません。
こうした例からも分かるように、必須の栄養素は、たった1でも高度に欠乏すれば死亡することがあるのです。
欠乏症と共に、過剰症がある栄養素もあります。例えば、ビタミンAには欠乏症がありますが、過剰症もあります。ダイエットによって、食事を減らすときには、欠乏症を生じさせないように、あらゆる必須栄養素を、必要な量だけ摂取しなければなりません。これは、そんなに簡単なことではありません。
卵と牛乳には、多くの栄養素が含まれています。健康な大人は、卵を毎日1個食べることができます。ただし、コレステロールの値の高い人は、卵を制限する必要があります。また、コレステロールの値の高い人は、牛乳を低脂肪のものにする必要があります。ダイエットしている時には、卵や牛乳は、貴重な栄養源です。野菜は、カロリーが少ないので、ダイエットをしている時でも、たくさん食べることができます。野菜を多く摂れば、野菜に多く含まれている栄養成分の欠乏症は起こらないことになります。1日に350グラム以上、あるいは400グラム以上の野菜を摂取することが勧められています。

・一番少ない栄養素が全体を決めること
リービッヒの最小律というのは、植物の生育量は、その一番少ない栄養素によって決まるということです。このことを説明するために、ドベネックの桶(オケ)が使われます。
同様のことは、アミノ酸についても言われています。人間が合成できない必須アミノ酸は20種類あります。アミノ酸から、蛋白質を作ろうとするときに、できる蛋白質の量は、一番少ないアミノ酸によって決まるということです。これもアミノ酸の桶で説明されます。
人間の体の活動も、一番少ない栄養素によって決定されていると考えられます。
例えば、次のような状況を考えてください。あなたは、自動車工場の工場長です。今、工場内に、次のような自動車部品があったとします。
ハンドル‥‥15台分
ブレーキ‥‥10台分
車体‥‥‥‥‥6台分
電気系統‥‥‥9台分
タイヤ‥‥‥‥4台分
これらの部品で、自動車を何台作ることができるでしょうか。これらの部品から自動車を作ろうとすれば、一番少ない部品が、全体の生産量を決めるのです。タイヤは、4台分しかありません。だから、答えは4台です。ドベネックの桶や、アミノ酸桶と同じです。
工場長のあなたは、タイヤなどの不足している部品をたくさん調達する必要があります。タイヤを調達しようとして、タイヤの絵が書いてあるコンテナをたくさん購入するのですが、工場内で開けてみると、中身はタイヤではなく、余っているハンドルなのです。こうして、工場内には、ハンドルがあふれかえっています。これが、肥満のイメージです。
現在、多くの人で不足しやすいのは、カルシウム、ビタミンD、食物繊維、良い油(不飽和脂肪酸)、野菜、果物です。過剰になりやすいのは、総カロリー、デンプン、糖、食塩、悪い油(飽和脂肪酸、トランス脂肪酸)です。
・味覚器があること
口の中には味覚器があって、甘い、塩辛いなど、食べた物の味が分かります。口の中の歯ごたえや、口の中の肌触りも食物によって異なります。また、食べ物には匂いもあります。鼻では20種類以上の化学物質に反応する嗅覚器があります。こうして、生物は、どのようなものを食べているかを分析しているのです。
十分なエサに囲まれたネズミは、必要な種類の栄養素を必要なだけ摂取して、太ることはありません。小児科医Davisが確認したように、この働きは人間の子どもでも行われています。完璧ではないにしろ、何を食べているかを把握して、正しい量を食べているのです。
しかしながら、本体はデンプンと悪い油であるのに、アミノ酸で味付けをして蛋白のように見せかけると、味覚器はごまかされてしまいます。必要な栄養素を摂取することが困難になります。タイヤの絵が書いてあるコンテナのようなものです。
味噌汁の具を食べていると、最初は味噌(アミノ酸が多い)の味がするでしょう。しかし、何度も噛んでいるうちに、その具の本来の味が出てくるでしょう。表面的な味に騙される分量が少なくなります。
また、デンプンは水に溶けずに、味覚器に反応しませんが、唾液の中には消化酵素のアミラーゼが含まれており、デンプンを食べるとそれによりわずかな糖が作られて、それを味覚器が捉えて、食べ物のデンプンを食べていることが把握されます。
食品を加工するときには、食塩や糖やアミノ酸が加えられて味付けが行われます。そのような人工的な味付けでなく、素材本来の味を楽しむのがお勧めです。人工的に味付けされた加工食品より、自然のままの食品がお勧めです。自然食品とは、肉、魚、野菜、果物などです。