2010年に、当時、国立保健医療科学院におられた藤原武男先生は、「生後6ヶ月の時点で、父親が育児に関わると、生後18ヶ月の時点で、子どもの事故は減る」という論文を、英語の医学雑誌に発表されました。
この研究では、父親が多く関与すると、事故も多く減るという「量反応関係」も認められました。またその後、他の年齢の子どもでも、同じように事故の減少は認められました。これは、画期的な論文でした。
この研究では、父親が多く関与すると、事故も多く減るという「量反応関係」も認められました。またその後、他の年齢の子どもでも、同じように事故の減少は認められました。これは、画期的な論文でした。
日本では1歳から15歳くらいまで、子どもの死因の1位は、不慮の事故です。カナダでは1歳から40歳くらいまで、死因の1位であるそうです。子どもの事故予防は、世界中の医療関係者が抱える大問題です。
この藤原先生の研究は、読売新聞でも大きく報道されて、共同養育のブログでも、反応がありました。
また、別の研究者によれば、父親が、学童期の子どもとポジティブな関係にあると述べた場合には、その子どもには事故が少ないとのことです。特に男の子の場合にそうです。驚くべきことに、母親が、学童期の子どもとポジティブな関係があると述べた場合には、事故は少なくなっていません。父親は、子どもの事故を減らす特別の役割を果たしているのです(Brussoni 2013)。
父親は、公園などの屋外へ子どもを連れて行き、体を使った荒っぽい遊び rough and tumble play をします。それは、むしろ危険を伴う遊びです。子どもは、父親の監視の下で、危険な状況における対処法を学びます。子どもは、安全な行動を父親から学ぶのです。
私の息子がまだ小さい頃に、私は息子と台所でボール遊びをしました。ボールはテーブルの下に転がって行きました。息子はテーブルの下に入って、ボールを拾い、立ち上がりました。息子はテーブルに頭をぶつけて、しばらく泣いていました。別の日に、私は再び息子とボール遊びをしました。ボールは再びテーブルの下に転がり、息子はテーブルの下に入ってボールを拾いました。その時私は語気するどく「立ってはダメ」と言いました。「頭をぶつけるよ」、「しゃがんで」と言いました。今度は、大丈夫でした。その後も何度か同じようなことがありましたが、子どもは大丈夫でした。子どもは、父親の語気するどい注意は聞いたほうが良いことを理解したようでした。
子どもの視力が低下したときには、父親は眼科医に話を聞いて、子どもにメガネを勧めます。
カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の泌尿器科による「男についてabout men」というサイトでは、「子どもの事故予防における父親の役割」について、同大小児科学の準教授のBrussoni氏は、次のように述べています。「子どもにとって、新しいことを体験するのは重要なことです。しかし、新しいことにはリスクが伴います。子どもは安全な状況で、新しいことを学ぶ必要があります。父親との遊びが、この点で、重要な役割を果たしています」。この文章には、同氏のビデオがありますが、Youtubeには、同氏のもっと長いビデオ1、ビデオ2があります。なお、同大は、藤原先生の留学先です。
またカナダの「父親が子どもに関与する勧め Father Involvement Initiative」の「子どもの事故予防」のページには、次のような文があります。
「事故は完全には無くなりませんが、次のようないくつかのアイデアで、ある程度、防ぐことができます。」
そして、以下のように、子どもと遊ぶことを勧めています。
「あなたの子どもと遊んで下さい。体を動かす遊びは、協力、限度、能力を子どもに教えます。そして、子どもの強さ、敏捷さ、バランスを良くします。」
小児科医の山中龍宏先生は、子どもの事故予防の分野で、日本の第一人者です。山中先生の文章にも、「子どもの事故による傷害の予防は、父親の重要な役割」という一文が見えます。(「子どもの事故による傷害」、p8)
また、前に申し上げたように、厚生労働省のパンフレット「妊娠・出産・子育ての父親の役割」では、父親の役割として、「子どもの事故を防止するための対応策をとる」と書かれています(p14)。
産業革命以後、父親は、子どものいる家を離れて、会社へ出かけてお金儲けをするようになりました。事故は子どもに多発していますが、そうした事故は、父親が子どもとすごす時間が減ったことによって発生する病的現象である可能性があります。もしそうなら、父親が子どもと遊ぶ時間を増やすことによって、子どもの事故を減らすことができます。
(以前の当ブログの記事)