厚生労働省の文書「父親の役割」において、父親は「子どもの事故を防止するための対応策をとる」と書かれています。父親が、子どもの事故防止を行うのは、次のような理由からです。
 
家庭というのは、動物の巣と同じで、一応は安全なところに作られています。外敵の侵入が少ない場所に作られています。(ビーバーの巣コウノトリの巣の例)。子どもは、安全な場所で、のびのびと育ちます。食事は親が運んでくれます。
 
しかし親が、巣の外で食物を得るのは容易なことではありません。植物は、動物に食べられないように、葉の中に毒物を作っています。だから、林や森の植物は、たいていの場合、食べることはできません。また、簡単に捕まえることができるような動物はいません。動物は、捕食者から全力で逃げようとします。
 
巣の外は、弱肉強食の世界です。自分も食われるかもしれません。微生物に食べられることもあります。巣の外は、一瞬たりとも気を緩められない、恐ろしい世界です。ヒトのオスは、そういう世界で狩をして、食物を手に入れて自分の集落に持ち帰るのです。

別の集落の男たちも、競争相手です。食物を手に入れやすい場所は、別の集落の男たちに取られてしまうかもしれません。殺されるかもしれません。現実の物理的環境も、危険に満ちています。巣から一歩外に出ると、そうした世界が、男を待ち構えています。
 
一番恐ろしい生物はヒトです。マクベス蜘蛛巣城)において、主人公は、自分をかわいがってくれた上司を殺し、親友を殺します。状況次第では、誰でもそうするのです。タバコが公然と売られているのも、自分のお金のためには、他人の健康を損なっても構わないということです。砂糖も食塩も奴隷制度(ただ働き)も離婚弁護士も全部同じです。そういう世界に我々は暮らしているのです。

手塚治虫氏の漫画ブラックジャックの「青い恐怖」は、浜を歩いていた青年が、シャコ貝に足を挟まれてしまう話です(カルテ32)。ブラックジャックは、シャコ貝の貝柱をメスで切って、青年を助けます。青年は海の恐ろしさを理解します。それで、青年は一段成長します。
 
子どもが、現実の危険性を理解できるようになれば、巣の中で遊ぶ子どもから、巣の外で仕事をする大人へと成長したということです。父親は、男の子に、巣の外がどのようなものかを教える必要があります。それは、巣の外で狩をする父親の仕事です。子どもが自分一人で試行錯誤をして覚えるのでは、命はいくつあっても足りません。また一旦タバコを吸うと、麻薬と同じくらいの依存性があって、やめられなくなります。
 
巣の中も、安全とは限りません。家の中にも発がん物質はあります。タバコを吸う人がいれば、タバコの害があります。健康に悪い食品もあります。家庭内でも、多くの事故が起こります(NHK)。日本の情報提供は、充分ではありません。
 
ハワイ大学の図書館の家族の部門は、「 Handbook of Father Involvement 」という本を推奨しています。これは、父親が子どもに関与することの重要性を述べた本です。この本のp176には、次のように書かれています。「子どもが暮らす環境には危険が多い。子どもの身近に父親がいれば子どもが守られる要因となるが、父親がいなければ子どもにいろいろな嫌なことが起きる要因となる」(Martinez, DeGarmo, Eddy, 2004)。

親以外には、手間ヒマかかることを、子どもにしてくれる人はいません。世間について、父親が子どもに教えるのでなければ、他の誰が教えてくれるのでしょうか。父親は、世間との付き合い方を、自分自身を実例として、子どもに紹介するのです。