ある子どもは、「親は2、3年前は仲良くしていたのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう」と述べていました(For the Sake of Children)。もちろん離婚は子どものせいではありません。親が離婚した子どもは、自分の結婚においても離婚しやすいという統計がありますが、それを防ぐにはどうすればよいでしょうか。人はなぜ、離婚するのでしょうか。
ゴットマン Gottman は、新婚カップルに15分~30分くらいのインタビューを行って、そのカップルが、5年後に離婚しているかどうかを、90%の精度で予測しました。新婚カップルの会話を観察すれば、そのカップルが将来どうなるかを、高率に予測できるのです。
米国の政府プロジェクト Healthy Marriage Initiative は、コミュニケーションの質と量の問題、争いの解決の仕方の問題を挙げています。そうして、コミュニケーションの質と量の改善を図り、夫婦間の争いを解決する方法について指導することにより、成果を挙げています。離婚率を下げる効果が認められています。
人間には、自分のことは良く解釈するが、他人のことは悪く解釈する傾向があります(帰属理論)。例えば、「自分が遅刻したのは、電車が遅れたせいだ」と考え、「あいつが遅刻したのは、いいかげんだからだ」と判断します。良いことが起きた場合は逆です。自分が昇進すれば、「真面目に努力したせいだ」と考え、他人が昇進すれば、「上司に取り入ったせいだ」などと考えます。
夫婦のコミュニケーションが悪くて、一心同体となっていない場合は、相手の行動の意図を悪く受け取ります。夫婦は離れていては、うまくいきません。自分と相手で一人の人格であると言えるほどに、コミュニケーションを密に行う必要があります。ハーリ Harley は、夫婦だけの時間が、週に15時間ほど必要であると述べています。この時間には、夫婦でテレビや映画を見ている時間や、夫婦が子どもといる時間は含まれません。単にこの時間だけ一緒にいればよいというのではなく、充分なコミュニケーションを行うには、そのくらいの時間が必要であるということです。
ワーク・ファミリー・バランスが悪くて、働きすぎて家庭の時間が少なくなると、夫婦に危機が訪れます。また、子どもが生まれると、育児に時間を取られて、夫婦だけの時間が減ってしまいます。
ゴットマンは、「怒りの表出」は、二人にとって悪くないと述べています。怒りを表出することは、むしろコミュニケーションをしているということです。むしろ「怒りを表出しない」ほうが、関係にとっては有害です。怒りを表出しない状態が続くと、いずれ、その代償を払わなければならなくなるとのことです。
また、ハーリによれば、カップルの関係で一番良いのは「仲が良い状態」ですが、その次に良いのは、「激しく争う状態」です。最も悪いのは「引きこもる状態」です。「激しく争う状態」では、それなりのコミュニケーションが行われますが、「引きこもる状態」では、コミュニケーションは行われません。
争いの解決においても、コミュニケーションは特に重要です。どの夫婦にも、争いはしばしば起きることですが、仲の良い夫婦は、コミュニケーションによりその争いを乗り越えます。離婚する夫婦は、一方的な決定が行われたり、相手を傷つけたりします。双方が、妥協できるような点に落ち着くのではなく、片方が不利な決定となり、損をしている方に苦痛が続くことになります。苦痛は、幸福とは異なって、いつまでも和らぐことはありません。自分の苦痛を相手に伝えて、公平に交渉しないと、苦痛はどんどん蓄積して行きます。いずれ、「もう我慢ができない」という地点に到達します。
ハーリが勧める技法のうち最も効果があるのは、「話し手と聞き手の技法」です。この技法では、順番に相手の話を聞く側に回ります。「相手の話を反論することなく聞く」ということです。これで効果があるということは、コミュニケーションの問題とは、発信の問題よりも受信の問題の方が大きいということです。
また、ポジティブ心理学は、次のように述べています。人は幸福な状態になっても、しばらくするとそれに慣れてしまい、当然だと思うようになります。有り難みが無くなり、感謝しなくなります。逆に不愉快な状態になると、苦痛を感じて、それにとらわれて、引きずります。このため、特に手を打たないと、頭の中は不愉快なことで一杯になってしまいます。積極的に自分の良い点に注目し、相手の良い点に注目し、自分の置かれた状況の良い点に注目する必要があります。さもないと、頭の中は不幸で一杯になってしまいます。
それは夫婦関係も同じです。相手の良い点にはすぐに慣れてしまい、当然と思ってしまいます。しかし、相手の悪い点は自分に苦痛をもたらすので、それにとらわれてしまいます。自分の良い点に注目すると同時に、相手の良い点にも注目しないと、夫婦関係hは不幸で満たされることになります。
その他の要因もあります。(1)例えば、子どもを産んで育てることが結婚の目的であった場合、しばらく時間が経っても子どもができないときには、夫婦関係の危機になります。生物は自分の遺伝子を子孫に反映させようとして行動しますが、それは、説明のレベルの問題です。(2)コミュニケーションの男女差も、コミュニケーションを妨げる要因です。(3)人は、離婚するのとしないのを比較して、その決断をしますが、その計量に及ぼす要因の問題もあります。
夫婦関係を良好に維持するのも一つの技術です。多くの人は、先輩や同僚から、非言語的に学ぶことが多いであろうと思います。しかし、米国の政府機関の教育がそうであるように、一つの技術として言語的に学ぶことも可能です。離婚した人は、その技術を持っていないので、どこかでそれを学ぶ必要があります。親が離婚した子どもも同様です。