諸外国では、親による子どもの連れ去りは重罪として処罰されています。ウィスコンシン州から日本に連れ去った例では、司法取引に応じなければ、25年近くの刑が科せられると見られていました。なぜ、子どもを連れ去ることは、そのような重罪とされるのでしょうか。この理由を知るために、次の3つの文章を読んでみました。

(1)親による誘拐:児童虐待の新しい形態 Parental Kidnapping: A New Form of Child Abuse (Dorothy S. Huntington、1982)

1932年に制定された連邦誘拐法は、リンドバーク法と呼ばれたが、片方の親が、他方の親から子どもを奪う行為は、法的救済を必要とする誘拐からは除外されていた。また、裁判所における判例法でも、片親が他方の親から子どもを連れ去る行為は、誘拐とは見なされなかった。

簡単に言うと、1970年代以前は、親による子どもの誘拐は、社会的な問題であるとは考えられていなかった。それは、多くの州で違法とされておらず、子どもを奪われた犠牲者の親も、自分を犯罪の犠牲者であるとは考えていなかった。

最近まで、親は、親権を持っていない州から子どもを「合法的に」誘拐して、自分にとって望ましい親権を得ることができる別の州に移動することが可能であった。

法制度が州によって異なることに対処するために、統一州法についての委員会は1968年に「子どもの親権の扱いを統一する法律案(UCCJA)」を作成した。現在までに48の州が、法律として採用している。連邦誘拐予防法は、1980年成立したが、「子どもの親権の扱いを統一する法律案(UCCJA)」を国家全体で守るよう要求している。

連れ去られた子どもは、誘拐のショックに耐えなければならない。片親やそれまでの社会的サークルを急に失い、新しい環境に急に順応しなければならない。また子どもは、連れ去った親が言う「母親はもうお前のことを愛していない」とか「父親は死んだ」というような嘘にも対処しなければならない。

我々は、長い間、親が子どもをどのように扱っても、それは全く問題がないと考えていた。このように子どもを物として扱う考えは、我々の中にまだ残っている。長い時間をかけて我々は、次第に、親として許される行為と、児童虐待やニグレクトを区別していった。子どもに対する罪で親を告発することが可能なのかという議論を通じて、もし親が子どもに対して犯罪を犯すのなら、児童虐待で告発することが可能である、いやしなければならないということを、我々は理解するに至ったのである。子どもが持つすべての権利は、子どもへの非人間的な扱い、深刻なニグレクト、身体的・性的虐待などの状況において評価される。我々は今や、子どもの連れ去りを、最も悪質な児童虐待であると評価しなければならない。

子どもを連れ去ることは、子どもの観点からすれば、児童虐待である。子どもの連れ去りでは、子どもは、両親間の争いにおいて、物ないし武器として使われる。そして、周囲の人を頼っている子どもの信頼感を踏みにじって破壊する。これは、児童虐待の基本的な定義の一つそのものである。

1974年に成立した「連邦、児童虐待の予防と治療の法律」によれば、子どもへの非人間的な扱いとは、次のように定義されている。「子どもの健康や福祉が障害されたり脅かされる環境の下で、子どもの福祉に責任を負う人間が、18歳未満の子どもに加える、身体的または精神的な傷害、性的虐待、ニグレクト、非人間的な扱い」。大抵の子どもの連れ去りは、この定義を確かに満たしている。

連れ去る親は、配偶者ないし元配偶者に対して、極めて強い敵意を持ち、相手を挑発し、動揺させ、攻撃し、コントロールするために、子どもを利用するのである。

(2)親による子どもの連れ去りは、児童虐待である Parental Child Abduction is Child Abuse (Nancy Faulkner、1999)

連れ去られた子どもは、慣れ親しんで来た多くのものを失う。それはオモチャ、自分の持ち物、遊び友達、親戚、先生、隣近所、遊び場、好きな店や食堂、日々の日課、そして親である。

「親密さへの恐れ」などの離婚の長期影響は、親が離婚して10年や15年が経過した後に現れることがある。

長引いた未解決のストレスは、噴出する方向が変わることがある。怒りなどの爆発は、脅威を与える者から、無関係で潔白な人に向けられることがある。脅威が、直面するにはあまりに恐ろしい場合に、発現する方向が変えられやすい。連れ去られた子どもは、怒りを連れ去った者ではなく、別の人(たいていは残された親)に向けることがある。残された親は、助けに来てくれないないし、元の生活を取り戻そうとしてくれないのだ。怒りは、内側に向けられることもある。敵意を他の人に向ける代わりに、自分自身に向けるのである。連れ去られた子どもの抑うつや自殺は、まれなことではない。

重篤なPASでは、子どもは、他の親と隔絶させられるだけでなく、他の多くの社会的接触とも隔絶させられる。孤立させられ、自主性や独立性の発達を妨げられる。

(3)親による誘拐:予防と治療 Parental Kidnapping: Prevention and Remedies(Hoff著、アメリカ弁護士協会、2000)

「親による子どもの誘拐」とは、親、またはその他の家族構成員、またはその雇われ人が、子どもを連れ去ったり隠匿するなどして、親権や面会交流権を妨害することである(p1)。

連れ去られた子どもは、精神的な打撃を受ける。また連れ去った者から、身体的な攻撃を受けることもある。連れ去られた子どもの内の多くは、「他の親は死んだ」とか「他の親は、もうお前を愛していない」などと告げられる。連れ去られた子どもは、家族や友人を失う。名前を変えられる場合もあり、外見を変えられる場合もある。本当の出身や状況を他人に知らせてはいけないと厳しく命じられる場合がある。連れ去られた子どもは、自分に役に立つかもしれない人々(警察官、教師、医師など)を恐れるように教え込まれる場合がある。学校の記録を通じて居場所が分かることを避けるために、学校に行かせてもらえない場合がある。子どもに及ぼす悪影響のために、子どもの誘拐は、子どもへの虐待であると見なされている(p1)。

1968年以前には、子どもを連れ去った親に親権が与えられる可能性が大きかった(p2)。

(4)親による子どもの連れ去りは、児童虐待である Child Abduction is Child Abuse
(連れ去られた子どもによる講演の動画)

(5)「ハーグ条約の真実」にあった棚瀬先生の論文を読みました。