この文章の趣旨は「科学は大切だ」ということです。
(1)科学とは何か
科学は、真理を知るための手続きです。小中高校の理科や数学で「合理的な推論」について学びます。また、論理の展開について学びます。
科学によって得られた知識は、多くは大学の先生などの研究者の研究によって得られたものです。その他、「偶然」や「天才のひらめき」や「極限状態の観察」や「しらみつぶしに調べること」や「長年の経験」などによって得られたものです。
科学によって得られた事実は、再現することができます。例えば、京都大学の山中教授の発見したことは、再現することができます。京都大学の山中教授は「皮膚などの細胞に、ある遺伝子4つを入れると、その細胞は、受精卵のような細胞になる」と報告しました。これは、多くの人の常識に反することです。受精卵は、細胞分裂して、筋肉や神経や皮膚の細胞に変わって行き、いったん筋肉や神経の細胞になると、元には戻れません。しかし、何人かの科学者が、同じ実験をしたところ、山中教授の言う通りであったのです。
皮膚の細胞から、受精卵のような細胞を作ることができるのならば、その細胞からさらにあらゆる細胞を作ることができます。これは、たいへんな発見です。
「再現できる」「実証できる」のは、誰がやっても同じです。実験する人の性格や立場によって、結果が変わるわけではありません。
アメリカ軍を支配する物理法則も、アルカイダを支配する物理法則も同じです。立場によって、弾道が異なるわけではありません。1+1=2というのは、誰が計算しても同じです。科学の成果を応用しないのは損です。
自然科学については、真実は一つですが、人文科学や社会科学ではそうでないことがあります。例えば、哲学では、いろいろな流派があります。多様な哲学があり、それぞれ存在意義があります。長尾教授は次のように書いておられます。「未知数は多いが、方程式の数が少ない場合のように、答えが一つに決まらず、いくつもある」。しかし、方程式はあるので、全く何も分からないわけではなく、一般的傾向は分かるわけです。
科学は、合理的であり、正しい論理の展開が行われます。科学には力があります。科学の力により、月に行ったり、大きなビルを建てたり。病気を治したりすることができます。力があるのは、自然科学だけではありません。社会科学の応用により、不況を克服したり、正しい学習法とは何かを知ることができます。
(2)科学に反すること
タバコが有害であり癌の原因になることについて、科学の観点から論争があるわけではありません。しかし、タバコ会社はそれに反対する研究者に多くのお金を提供しています。そうした研究者は、タバコは癌の原因ではないという研究結果を出しています。タバコ会社は、自分のお金もうけのために、タバコは癌の原因でないと主張しているだけです。科学の結果がいく通りにもあるわけではありません。タバコ会社は、科学の真似をしてタバコの宣伝をしているだけです。タバコ会社の内部文書から、タバコ会社自身も、自分の主張を信じていないことが判明しています。
これまで「原子力発電所は絶対に安全だ」と言って対策をおろそかにしていた人たちも、お金のためにそういう宣伝をしていたということです。
迷信を深く信じ込む人もいます。治り難い病気にかかった人は、人から聞いた治療を自分で行っていることがあります。民間で行われている治療法のうち、本当に効果があるのは、ごくわずかです。誰かが根拠の無いことを言うと、難病の患者さんは、わらをもつかむ気持ちで、そういう治療を試してみるのです。
また、友人が言ったことを真実と受け取って、よく確かめずに実行する人もいます。友人が科学的真実を知っているとは限りません。
賭け事に、はまって身を滅ぼす人がいます。人は、なんとなく自分だけ幸運であるような気がするのです。幸運にも助かった人の話は聞けますが、不幸にも死んだ人の話は聞けません。
(3)学ぶということ
科学は、世界の秀才が長い年月をかけて多くの経験を集めて明らかにした真実です。これを利用しないのは損です。利用するというのは、学ぶということです。
今、アインシュタインと同じくらい優秀な人がいたとしても、その人が現代科学を学ばないのなら、その優秀な人は、一生かけても、アインシュタインと同じ事を発見するだけです。現代の研究者なら誰でも知っているを発見するだけです。価値はありません。
その人の能力は、多くは、その人の学ぶ能力で決まります。多くを学ぶことができる人は、優秀な人です。あまり学ばない人は、おろかな人です。自分一人で体験できることは限られています。他の人の体験から学ぶ必要があります。学ぶことにより、誰でも優秀な人と同じように行動することができます。
日常生活には多くの落とし穴があります。人生に対処する考え方も安易な誤りと失敗があります。私は多くの落とし穴に落ち、多くの誤りと失敗をしました。より良く生きていくためには、他人の経験を生かさなければなりません。多くの人が蓄積した経験を学ぶ必要があります。
事故や病気をいちいち自分で体験することはできません。小さい事故で終わるとも限りません。取り返しのつかない大きな事故が起きることもあります。自分の生命を大切にしなければなりません。
科学を大切にしなければなりません。科学的真理を無視することはできません。他の解決法はありません。無視すれば、損をするだけです。誰でも、科学の大切さを学んで、合理的な思考過程により、最善の解決に到達することができます。
また、知識そのものだけでなく「勉強の仕方」を学ぶことができます。また「勉強の大切さ」を学ぶことができます。さらに「時間の使い方」「自分で勉強するということ」を学ぶことができます。誰でも、こうした技術を学ぶことができます。誰でも、野口教授のような知的生活を送ることができるのです。ただし、こうした技術は、学校ではあまり教えてくれません。学校が教えてくれるのは、個々の知識だけです。
自分の利益は、自分で守るしかありません。他人は他人の利益を増やそうとします。我々の利益ではありません。自分で考え、自分で学び、自分で行動する必要があります。人の意見は参考にするだけで充分です。
(4)情報源
健康や安全に関する情報は、正しく与えられているとは限りません。例えばタバコは、ごく最近まで「健康のため、吸いすぎに注意しましょう」という警告文だけで売られていました。強い依存性については、説明されていません。また発がん性についても、説明されていません。
テレビというのは、基本的には大企業の宣伝の場です。民放の場合、テレビ放送にかかるお金は、スポンサー企業が出しています。スポンサーを批判する番組はありません。事情はNHKも同じです。NHKも「○○という食品
の摂取を減らそう」という放送は、見当たりません。
新聞や週刊誌も事情は同じです。週刊朝日の表紙裏にはタバコの宣伝があります。見開き2ページでカラー印刷です。高額の広告収入があるはずです。週刊朝日の本文で、タバコに批判的な記事が書けるわけがありません。週刊朝日は、タバコ会社の広告誌です。
正しい情報を伝えないのは、一口で言えば、お金のためです。他人の健康を犠牲にしても、自分たちのお金を増やそうとしているのです。
正しい情報を得ることは、なかなか難しいことです。私は、予防医学に興味を持っており、長年予防医学を勉強してきました。そして、WHOなどの世界機関や、CDCなどの米国政府機関を信頼しています。これまで、その信頼が裏切られたと思ったことはありません。
(5)実践
健康について実践しないと不都合が生じます。例えば、染色体のDNAが傷ついて、遺伝子が傷つきます。生殖細胞のDNAに傷がつくと、修復されなければ、未来永劫にコピーされて行きます。DNAの傷は蓄積しますから、子孫は次第に病気がちになったり、癌が生じやすくなったりします。
警告を無視するなどして、危険から目を背けても、DNAに傷がつかないわけではなく、不都合が生じないわけではありません。しばらくの間、不都合なことが自分の意識から消えるというだけです。
国立がんセンターの「癌を予防する13か条」を実践するのがお勧めです。またWHOやCDCのお勧めを、守るのがお勧めです。科学的に効果が証明された予防法は、あまり多くありません。また、生活習慣病の予防法は相互に重なっていて、同じことをすれば良い部分がかなりあります。例えばタバコを吸わずに運動をすることは、がん予防に効果があるだけではなく、心臓病の予防にも効果があります。