カナダ議会の特別委員会は、共同親権を取り入れるかどうかを検討し、「子どものために」For the Sake of Children という文書を作りました。私は、その一部を訳しましたが、下の図は、その目次の部分です。
 
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第1章では、親が離婚すると子どもに大きな衝撃が与えられることが述べられています。実証的な研究を踏まえています。親が離婚すると子どもの精神的な予後は悪くなります。
そして、2章では、子どもの予後を改善させるためにどうすればよいかが検討されています。まず最初に挙げられているのは「子どもの声を聞くこと」であり、次には「子どもの権利を守ること」です。
 
そして、当然ながらこの特別委員会自身も、子どもの声を聞いています。

    「あなたは9歳だ。だから何も知らないのだ」と、彼らは考えている。だけど、これは僕の
    人生なんだ。(証人、15歳)

    彼らは僕の人生を決める。僕の未来を決める。だが彼らは僕のことを知りもしないんだ。
    (証人、15歳)

「彼ら」というのは、司法当局という意味です。自分の希望が聞かれずに勝手に決められてしまうことへの不満を述べています。
 
    多くの変な感情があります。以前には無かった感情です。誰もが、離婚はあなたのせい
    ではないと言うけれど、でも時々そうかなと考えます。(証人、14歳)

多くの子どもたちは、親の離婚を自分のせいだと考えて、自分を責めます。
 
    私の疑問というのは、なぜあなた達は離婚しようとしているのかということだ。なぜこんな
    ことが起こらねばならないのだ。(証人、10歳)

    親が怒鳴りあっている時の気分は最悪です。頭が痛くなるか、悲しくなります。私は、
    テッディ・ベアのぬいぐるみを抱いて、部屋の隅に横になって、長い時間出てこないの
    です。(証人、12歳)

    親が争っている時は、悪い気分である。2~3年前は幸福な結婚生活を送っていたのに
    ‥‥と考える。(証人、14歳)

親が争うと、子どもの精神に悪い影響を与えます。子どもは、精神的にも身体的にも、半分父親で、半分母親です。相手を批判することは、子どもの半分を批判することです。争いを極力減らす必要があります。
 
(親が離婚すると、子どもの心に苦しみが生じます。将来への心配・不安が生じます。自分の人生を勝手に決められることへの強い不満が生じます。また親の選択を強制されると、強い葛藤が生じます。)
 
子どもがこうむる不利益を減らして、子どもが将来元気いっぱいに活躍できるように、のびのびと育てる必要があります。
 
この特別委員会において、いろいろな立場の人が、子どもの精神的予後を改善して子どもの福祉を増進させるためには、まず子どもの声をよく聞くことが重要であると証言しています。そして、子どもの権利を守る重要性を指摘しています。
 
 
ところで最近、日本の法制審議会は、ハーグ条約受け入れのための法律案を作成しました。ハーグ条約は、連れ去りがあったときに、その裁判地を決めるための条約です。
 
法律家だけから成る法制審議会は、パブリックコメントを募集しましたが、子どもからの意見聴取を行いませんでした。「子どもの処遇を決めるに際しては子どもの意見を聞くこと」という子どもの権利条約は、守られませんでした。私は、パブリックコメントにおいて、その点を指摘しましたが、パブリックコメントの集計においても、無視されていました。この法律の制定自体が、子どもの権利条約に違反しています。
 
また作成された法律案は、「子どもの意思を把握するように努める」となっており、単なる努力目標であるように書かれており、子どもの権利条約から後退しています。なお、子どもの権利条約が求めているのは、意見を聞くことであり、意思の把握ではありません。
 
もともと日本の裁判所は、子どもの権利条約を、裁判規範として扱っていません。今回の法律案も、子どもの福祉の増進を第一に目指したものではありません。カナダ議会と比較するとよく分かります。今度の法律案が可決され成立しても、子どもは、激しい争いの中に長時間置かれるなど、精神的ダメージが与えられると予想されます。
 
当事者が争って得をするのは法律家だけです。関係者の争いが減るような別の法律が必要です。協力して子どもを育てる法律です。世界中の先進国が実施している法律です。