BacHome のホームページに、下の2つのような記事へのリンクがありました。
 
「カオリさんは、日本人の女性です。ニュージーランドと英国に二重国籍のある男性と結婚してロンドンに住んでいました。共働きで、1歳の子どもがいました。ある時、夫が東京でフルタイムの仕事が見つかったというので、仕事を辞めて、3人で東京へ戻って来ました。帰国の数日後に、夫が自分の友達に会わせると言うので、美容院へ行っていると、夫と子どもの姿が見えなくなりました。夫は子どもを連れてニュージーランドに帰ったのでした。夫との連絡はEメールだけになりました。」

(途方に暮れているカオリさんに対して、川本祐一弁護士は、この記事の中で、いろいろ説明しておられます。その結論として川本弁護士は、日本において対策を行うのは困難であり、英国やニュージーランドにおいて行動を起こすべきだと述べておられます。英国とニュージーランドは、ハーグ条約を締結していますから、子どもが常住国に返還される可能性があります。)

以下は私の感想です。

夫による子どもの連れ去りは、英国とニュージーランドにおいて、児童誘拐に該当する可能性があります。アメリカの場合では、親による児童誘拐は重罪であり、最長で20年の刑になると報道されています。ただし、今回の連れ去りは、日本で行われているので、罪にならない可能性もあります。この点については、私には分かりません。

このケースの場合、夫は「緊急的な避難」であったと反論するかもしれません。日本の現状を踏まえて、子どもとのつながりを保つためには止むを得ない行動であったと主張するかもしれません。夫の立場からすれば、実際にその通りである可能性があります。

今後、日本でハーグ条約の締結が具体化されるに従って、駆け込みの連れ去りが発生するかもしれません。ハーグ条約は遡及しないので、施行される前に、連れ去ってしまえば、子どもは返還されません。そうだとすると、日本人女性による連れ去りに備えて、このケースのように外国人の夫が先に手を打つ可能性があります。日本人女性に、先に子どもを連れ去られたら終わりで、それでもう一生、子どもとは会えないかもしれないのです。

川本祐一弁護士は、カオリさんに、英国やニュージーランドにおいて、行動を起こすことを勧めておられます。その他にもう一つ、夫を説得するという手があります。子どもに両方の親が関わる重要性を、夫に説明するということです。子どもが大きくなってから、批判的な目で見るようになったときに、子どもはどう判断するだろうかということです。父親が母親を排除したか、どうかです。子どもと母親が会えるような努力を父親がしたかどうかです。現在の状況が、将来の子どもに分かるように、いろいろな資料を残しておくことも必要です。裁判すれば、自動的にいろいろな資料が残されるでしょう。

日本においても離婚後に、両方の親が子どもにしっかり関わるような制度にすれば、こうした心配や策動は不要になります。制度が不備であれば、関係者が無駄な争いをしなければなりません。先に連れ去らないと、一生、子どもに会えなくなるかもしれないのです。当事者が争って得をするのは、弁護士だけです。

(2)The Japan Times ジャパン・タイムズ 2011.11.10
6カ国は日本に働きかけを行っている

「日本の法務省がハーグ条約受け入れのための国内法の原案を作成し、一般からの意見を公募したが、これに対して、アメリカ合衆国、カナダ、イギリス、フランス、オーストラリア、ニュージーランドの6カ国政府が、共同で意見を提出した。

法務省の原案では、子どもの連れ去りが暴力的な配偶者から逃げる目的であったような場合や、連れ去った親が犯罪について訴追される恐れがあるような場合には、子どもを返還する必要がないとしている。

これに対して、6つの政府を代表してカナダの大使館が共同の意見を提出した。その共同の意見書は、法務省の原案はハーグ条約から外れていると述べている。すなわち、子どもを返還しなくて良いのは、「grave risk 重大な危険」がある場合だけであり、配偶者の暴力やその他の理由は、それに該当しないと述べている。」


私の考えは、6つの政府と同じです。ハーグ条約は裁判地を決める手続法です。実質審理は、子どもが住んでいた国で行うということです。違法な連れ去りを許さないということです。もし実質審理を、連れ去った先の国で行うのなら、条約の意味はありません。
 
しかし、今後の見通しとしては、子どもの権利条約と同じように、締結はするけれども、裁判官は条約を守らないということになるでしょう。ハーグ条約受け入れのための法律は、あいまいな形にしておいて、東京と大阪で返還の審理を担当する2人の裁判官が、米国人父親のDVを認定するか、子ども自身が返還を希望しないと認定するかのいずれかになると予測します。実際に返還するのは、里帰りが長引いただけのケースや、審理の場で待遇改善を要求することが連れ去りの目的であったようなケースや、優秀な専門の弁護士を雇うお金が無いケースに限られるでしょう。
 
欧米諸国にとっては、法と正義は同じものです。裁判官は、正義に基づいて判断を下す人として、尊敬され保護されています。だから、条約を締結して「守ります」といって外国と約束したことを、裁判官が実際には全く守らないという事態を、欧米の人は良く理解できないのです。

(3)前に申し上げましたように、私も法務省の意見公募に対して自分の意見を送りました。その改訂版と英訳です(既出の分です)。私が英語を勉強するために再掲しました。