法務省による意見募集に対して、以下ようなの意見を送付いたしました。
 
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住所:兵庫県
氏名:堀尾英範
年齢:58歳
職業:勤務医

「中間取りまとめ」は、全般的に言って、子どもの利益を第一に考えるという子どもの権利条約の趣旨の尊重が感じられず、父親と母親の対立を煽る内容となっている。
 
子どもの権利条約は、国会で批准されており、国民の意思である。国民の本心である。離婚後も、子どもの権利を守るというのは、国民の意思である。法律家が、それを軽視するのは許されないだろう。今年の民法改正時の国会の付帯決議もある。
 
(1)法律の目的を明確にすべきだ
子どもは、両方の親から愛されて、両方の親に育てられるという権利を持っている。そのために違法な連れ去りを防ぐ必要がある。万一違法な連れ去りが起これば、元に戻す必要がある。こうした点を、法律の目的として明記すべきだ。
 
(2)子どもの意見に関する部分を修正すべきだ
子どもの権利条約に沿った文言を採用すべきだ。「子どもの意思を把握するように努める」とある所を、「子どもの意見を聞かなければならない」に改めるべきだ。
 
子どもの権利条約では、子どもの処遇を決めるに際しては、子どもの意見を聞くことになっているが、聞くだけである。もし、子どもの意見の内容を尊重するならば、同居親は当然、自分に有利なように言うように、子どもに強制するであろう。子どもは親に脅かされて、本心に反して意見を言うであろう。これは、虐待そのものである。
 
子どもの本心を、自由に充分に聞かなければならない。日本の現状は、調査官が1回だけ1~2時間をかけて話を聞くだけであるそうだ。そうして「どちらの親と暮らしたいか」のように、本来選べないものを無理に選ばせるのである。これは、子どもの心を引き裂く。両方の親を持つというのは子どもの権利である。子どもに自由に話をさせるべきだ。同居親からの強制を、慎重に排除しなければならない。
 
生まれて間もない子どもは、言語的に説明することはできないが、父親の声を聞くと、新しい刺激や楽しいことを期待して喜ぶ。それは、脈拍数や呼吸数の変化に現れる。
 
(3)子どもの意見を聞け
この手続きは、子どもの処遇を決めている。子どもの処遇を決めるに際しては、子どもの意見を聞かなければならない。そうでないと、このハーグ条約受け入れの手順自体が、子どもの権利条約に違反することになる。
 
子どもの権利条約が基本法であり、ハーグ条約は裁判地を決めるための手続き法である。
 
聞くだけで良いのである。主役が子どもであることを確認し、こうした手続き全体が子どもの利益を尊重するためのものであることを、確認するためである。
 
可能な限り、子どもの意見を聞くべきだ。親が離婚する不安、知らない土地へ行く心細さ、片親と会えない寂しさ、親が対立するショックなどを、子どもの口から聞くべきだ。親が離婚した子ども作られたグループがある。ネットのそうしたサイトもある。外国から連れ去られた子どもにも、可能な範囲で意見を聞くべきだ。もう成人している人から聞いても良い。そうして、聞いたことを可能な範囲で公表すべきだ。
 
同じ意味で、児童心理学者や、児童精神医学者の意見を聞くべきだ。子ども自身が表現できない部分を代弁してくれるであろう。彼らは、子どもの特性を知っている。聞いたことを可能な範囲で公表すべきだ。
 
意見(利害関係)で決めるのではなく、子どもの精神的な予後を良くするかどうかで決めるべきだ。
 
家裁の調査官は、法律家の利益に反することは言いにくいであろう。そうして、今の生活を守ろうとするであろう。イギリスのCAFCASSは、裁判所から独立している。
 
ただし、児童心理学者も児童精神科医も、子どもの精神的不安定で収入を得ている。子どもが精神的に不安定になる原因の半分は離婚である。つまり弁護士と同じように離婚によって収入を得る離婚産業の従事者であるから、利害関係は、法律家と同じである。
 
(4)acessについての規定を設けよ
acess についてのハーグ条約の規定を遵守することをはっきりさせよ。ことによると、現状の国内法によるということかもしれない。それを心配している。それは時間がかかりすぎるであろう。結論が出るのに6週間なら待てるかもしれないが、現実には平均286日もかかる。最高裁まで争えば、1年以上かかるであろう。その間、子どもに全く会えないだろう。同居親は、子どもに会わせないことで、親子関係が切れてしまうことを、有力な交渉の武器にする。日本の弁護士は、結論が出るまで会わせないように指導する。
 
子どもの権利条約は、別居後も、恒常的に子どもと親子の交流を行うことを要求している。長く会わせないのなら、この条約の手続き自体が、親子関係を切ってしまうことになる。特に小さい子どもでは、記憶の範囲が狭い。一晩寝ると約束を忘れる年齢の子どももいる。
 
充分な acess を保証すれば、返還自体は不要である場合もあるであろう。インターネットのテレビ会議システムを使えば、どんなに離れていても、無料で毎日子どもの顔が見られるのである。現状はそういう努力をしておらず、逆に、会わせないことにより父親と子どもの関係を切ろうとしている。
 
(5)強制的な返還方法を明記せよ
違法な連れ去りに対しては、強制手段もやむを得ない。収監の手続きに準じれば良い。同居親は、子どもの権利に反して違法に連れ去ってきたのである。有無を言わさずに子どもを連れてきたのである。強制的に元の状態に戻さなければならない。この点について、反対派の弁護士は、母と子の間を引き裂くような強制的な連行はあり得ないような議論をしているが、現状でも収監の手続きは大したトラブルもなく行われているだろう。外国でもそうしている。
 
この手続き中に、当事者が子どもの処遇について合意することもあり得る。充分に会えずに、親子関係が切られてしまうことが一番の問題である。子どもを日本に連れ去られた親は、ほとんど子どもに会っていない。子どもをアメリカに返還する代わりに、充分な親子の交流を認めることは、ありそうなことである。親子の交流を、連れ去った親が任意に決めるのでは、交渉にならない。強制が必要である。

(6)公示送達の制度を採用すべきだ
申立人は、子どもが日本国内にいることを証明する必要がある。中央当局が探しても居場所が不明な場合に、公示送達をしないのなら、1年間以上も隠れていればよいことになる。小さい子どもは英語を完全に忘れて、親の顔も忘れるであろう。それは、子どもの不利益である。公示送達の制度があれば、多くの場合には、関係者が連れ去った親に知らせるであろう。
 
(7)返還拒否は、grave な(重大な)危険がある場合に限定すべきだ
それが、ハーグ条約の規定である。 grave risk とは、「重大な危険」であるが、「墓場(死)の危険」でもある。
返還拒否は、一見して審理する必要もないような、明白な危険のあるケースに限るべきである。返還して常住国で、詳しく審議をして判断すればよい。
 
中間案の通りだと、日本の弁護士は、総力をあげてDVの証明をしようとするだろう。最低でも、連れ去った親自身の証言、連れ去った親の身内や友人の証言、連れ去られた子どもの証言などを作成するであろう。子どもに返還を望まないように言わせるであろう。親と子の精神的不安定の診断書も用意するであろう。
 
申立人もそれに対抗して、いろいろな証言を用意しなければならないだろう。親子で平和に暮らしていた証明を用意するであろう。連れ去った親が、違法に連れ去ったことを証明するであろう。
 
それは、子どもの奪い合いそのものである。法律家が、父親と母親に子どもの奪い合いをさせるという構図が、全く変わっていない。法律家が得をするだけだ。これは、裁判地を決めているのである。
 
離婚に関する司法手続きの目標は、離婚後も両方の親が協力して子育てをするということである。そこから、どんどん遠くなってゆく。このハーグ条約の手続きが、父親と母親の関係をさらに壊すであろう。
 
子どもの常住地で、DVの有無を厳格に審理すればよい。そして、いろいろな交渉をすればよい。子どもの常住地で、両方の親が協力して、子どもを育てれば良い。あるいは、離れていても、子どもがパパの家とママの家を行き来すればよい。
 
子どもにとって、両方の親は必要である。それを実現するために、連れ去りを防ごうとしているのである。万一連れ去りが起きれば、元に戻そうとしているのである。中間取りまとめは、方向性が誤っている。
 
                                                    (以上)
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