前にも申し上げましたように8月5日に、ハーグ条約に関する日米シンポジウムを聞きに行ってきました。内容の豊富なシンポジウムでした。
 
(1)手続き的な条約
弁護士の大谷先生によれば、ハーグ条約は、「管轄権調整のための手続き的な条約」であるとのことでした。また、ハーグ条約の根底には、子どもの権利を守る目的があるとのことでした。
「手続き法」について、長尾教授の解説があります。(法哲学入門、P146)。
ある人のサイトに、この長尾先生の文章がありました。

兵庫県弁護士会はハーグ条約に反対していますが、このシンポジウムを主催した大阪弁護士会は、必ずしも反対ではないようです。授権という観点からすれば、主権は国民にあります。弁護士には関係ありません。弁護士には利害関係があるというだけです。国民の意思を条約や法律に反映させて、日本の裁判官の自由裁量を制限するということです。これまで日本では無視されてきた子どもの権利を大切にするということです。

ところで、ハンス・ケルゼンも、ピーター・ドラッガーも、マリア・フォン・トラップも、オーストリア出身であり、ナチス・ドイツの頃にアメリカに渡っています。シュンペーターも同じです。

(2)子どもの権利の具体的内容
シンポジウムにおける討論の中では、「現在、国連の子どもの権利委員会では、子どもの権利の具体的内容を定める作業を行っている」という発言がありました。

コリン教授は、次のように書いておられます。(Japan Times 2011.8.9
「日本では、片親が自分の子どもを連れ去り、子どもの一生から他の親を消し去ることがしばしば行われている。日本の裁判所は、こうした現状に対して何もしないどころか、時々『それは子どもの最善の利益にかなう』などとと述べることがある。」

世界にはこのような国もあるので、子どもの権利の具体的な内容を明らかにする作業が必要なのでしょう。子どもの権利条約を守れば済むことです。

(3)子どもを代理する人
シンポジウムの討論の中で、「子どもの権利を代理する人の制度が、2年に以内に実施される予定である」という発言がありました。
 
江田法務大臣の委員会答弁です。(12011.4.19) (弁護士が裁判官をするのは、私は反対です) 
大阪弁護士会の藤原氏の文章です。
これまで日本では、(15歳以上を別として)、子どもの意見を聞かれることはほとんどありませんでした。

(4)アンダーテイキング
当日配布された文書によれば、アンダーテイキングとは、申立親が子の所在国の裁判所において、例えば「暴力をしない」「刑事告訴を取り下げる」「子を取り上げない」といった約束をすることであるそうです。
また、ミラーオーダーとは、子どもが返還される先の裁判所が、アンダーテイキングと同じ内容の命令を出すことであるそうです。
米国のバーグ弁護士によれば、アンダーテイキングが有効なケースがあるとのことです。

(5)真に重要なこと
コリン教授は、ジャパン・タイムズで次のように述べておられます。(Japan Times 2011.8.9)。
「私は英国で調査研究をしている。英国では、ハーグ条約の多くのケースでは、子の返還で終わるよりも、親子の交流をもっと確実に行う形で終わることが多い。これは、裁判と並行して行われる調停で決められる。別の言い方をすれば、子どもとの接触を完全に断たれてしまうことを心配する父親が、子どもの返還を求めて提訴するのだが、子どもと充分に会えることが保障されれば、現状を追認することが多いのである。」

親権をどちらが持つかとか、管轄権を持つ裁判所はどちらかということは、実はどうでも良いことで、非同居親が子どもと充分な時間を過ごすことができれば、それで良いのです。ハーグ条約による返還命令も、それを実現するための一つの手段に過ぎません。
 
弁護士と裁判官が、父親と母親を戦わせるために、片方の時間を極端に少なくすることが問題であるだけです。国民の意思は、離婚後も子どもの健全な発育を望むということです。両方の親ともに、子どもとの充分な時間を保証されれば、相互に協力して子どもを育てるようになるのです。