(1)米国における離婚後の引越しについて調べました。 (文献1)、(文献2)、文献3文献4

米国において、離婚後に子どもと引越しを行うには、ある一定の距離を越える場合には、事前に裁判所の許可を得ることが必要です。裁判所の許可を必要とする移動の距離は、州によりまちまちで、郡の外に出る場合、50から150マイルの決められた距離を越える場合、州の外に出る場合など、いろいろです。

また、引越しをする前に、もう片方の親に通知する義務があります。

単独親権者が、条件の良い仕事が見つかったという理由で引越しの許可を求めた場合、裁判所は原則的には許可しますが、長期休暇中の親子交流日数を増やしたり、子どもが移動するために必要なお金の負担を増やしたりするなどの対策が必要になります。

共同親権者の場合には、条件の良い仕事が見つかったという理由で引越しの許可を求めても、裁判所は原則的には許可しません。

しかし、それはあくまでも原則に過ぎず、実際には個々のケースについて、その引越しの必要性と、親子の交流が困難になる度合いを、裁判所が比較計量して判断します。もう片方の親の同意があれば、裁判所の許可が得られる可能性が高くなります。

住んでいる州の法律や規則に違反して移動を行うと、それは通常は親権の喪失を意味します。誘拐に該当する場合は、刑務所に入る可能性があります。

従来は、「単独親権者にとって都合の良いことは、子どもにとっても都合の良いことだ。」という裁判所の考えによって、単独親権者の引越しが容易に許可される傾向にありました。しかし、心理学者の側から、引越しによる距離の増大が、子どもの精神的な予後に悪い影響が与えられる事実が示されて、許可基準の検討が求められています。
 
例えば文献5では、離婚後に親子が、車で1時間以上の距離を離れた場合には、子どもの学業成績が低下することが示されています。距離は、親子の間を否応無く引き離して、子どもの精神発達を妨げます。

(2)ワールドカップ優勝の衝撃から、私は立ち直っていません。私は、Youtube で、なでしこの動画を検索して、日本語と英語で見ています。

(3)「単独親権者は、子育てについて自由に決めて良い」と決まっているわけではありません。

立法者の考えは、好意的に解釈すれば、次のようなものであると考えられます。
「夫婦が結婚して仲が良いときは、主要な考えは一致し、育児の方針も一致しているであろうが、夫婦の仲が悪くなり離婚に至ったような場合には、考えは一致せず、育児の方針も一致しないであろう。離婚後も、両方の親が子どもに関わって育てるのが望ましいが、両方の親が一致しない場合に困るであろう。そうした場合に、片親の考えを優先させるように、あらかじめ決めておく必要がある。」

一つに決まらないと困るので、便宜的に決めておくということです。

今仮に、離婚後にも共同親権が適用されたとします。そして本日離婚したとします。子どもがどこに泊まるのかについて、共同で議論して、話がまとまらない場合はどうなるのでしょう。

制度としては、話がまとまらなければ裁判所が決めるわけですが、裁判所に訴えてから判決が出るまでに何年もかかります。

単独親権制は、どうしても話がまとまらない場合には、便宜的に単独親権者の意見を採用するということであって、単独親権者が全く自由に決めることを保証しているわけではありません。

例えば、国会ではいくつかの事項について「衆院の議決が国会の議決となる」場合があります。しかしだからと言って、それらの事項について、衆議院が全く自由に決めて良いわけではありません。参議院でも審議が行われます。参議院の意思を表明することも可能です。参議院も重要な役割を果たしています。

どうしても意見が一致しない場合に困るので、片方の優越をあらかじめ決めてあるに過ぎません。もう一方が関与しなくてよいということではありません。

国会については、代表の選び方が異なれば、意見も異なるということですが、父親と母親については、単に意見が異なるだけでなく、子育ての役割が異なります。父親は、子育てにおいて、独特の重要な役割を果たしています。(「父親の役割」を参照)。

単独親権よりも、単独育児が問題です。子が片親と過ごす時間が短いことが問題です。時間が半々またはそれに近ければ、単独親権はあまり問題になりません。

私は「単独親権」の状態から「交互に子育て」の状態になり、さらに「協力して子育て」の状態になると予測しています。

(4)明日(8月5日)のシンポジウムを聞きに行く予定です。日米シンポジウム「子どもの最善の利益と親の権利から、国境を越えた子の連れ去りを考える」という題です。

私は、法律よりは事実の問題だろうと考えます。

もし親が、子どもの食事を介助するだけの存在であるのなら、親は1人いれば充分です。あとの1人は金だけを持ってくれば充分です。しかし両方の親が、子どもの発育に不可欠の存在であるのなら、片親を排除することは、子どもにとって大きなマイナスになります。

親が離婚した子どもの精神的な予後が悪いことは、いくら法律を眺めていても、出てきません。また、片親と子どもの距離が離れるほど子どもの精神的な予後が悪くなるということも、法律を眺めていては、出てきません。法律の解釈の問題ではなく、心理学的な事実の問題であると考えます。事実の啓蒙の問題であると考えます。

(8月6日、記す)
シンポジウムを聞いてきました。非常に勉強になりました。世の中には優れた人がいるものですね。
バーグ弁護士に対して場内から質問がありました。「アメリカが、単独親権から共同親権に移行したのは、なぜですか」。これに対するバーグ弁護士の回答は「心理学的な事実による」ということでした。