離婚で壊れる子どもたち」を読みました。

(1)ようやくの1冊です。
棚瀬氏は、日本では、この問題に対するほとんど唯一の著述家です。離婚が子どもに与える影響について勉強して、それを実際に適用するという人が、これまで見当たらなかったのです。インターネットや本の検索で見当たりませんでした。

弁護士、家裁調査官、臨床心理士、児童精神医学者などのうちで、ネットや本を通じて情報提供しようという人は見当たらなかったのです。Wikipedia の「離婚」の項目の該当部分は私が書きました。

この本の内容の半分を、私は英語で学びました。残り半分は、私が知らなかったことです。

幸いにして、この本は売れているようです。これまで、日本にはこのような一般向けの本がありませんでした。なお「子どもの福祉と共同親権」という本のアメリカに関する部分は、棚瀬氏が書いておられます。

(2)「出来事」であると同時に「プロセス」である。(P16)
もちろん、結婚も出来事というより、一連のプロセスです。離婚もまた、心理的なプロセスです。

Wallerstein 氏は、特に、子どもに与える影響を考えるに際して、離婚がプロセスであることを強調しています。つまり、「離婚の瞬間に悲しみが強くなり、その後に次第に癒されてゆく」というようなものではないのです。プロセスの進行と共に、悲しみが増してゆくようなこともあるのです。精神的な打撃についても同じです。

(3)離婚すると父親の年収は15%増える。(p22)
これは、初耳です。逆ならよく聞きます。例えば、Linda White氏(p99)は、20から35歳で、妻帯者は1時間で平均11.33ドル稼ぐが、独身者は10.38ドル稼ぎ、別居ないし離婚した人は9.61ドル稼ぐと述べています。

男は妻子のために頑張って働くのです。金を払う側は、自分の家庭さえうまくやれないような男に、仕事を任せるのは不安です。

なおLinda White 氏は、離婚した人は寿命が短くなるとも述べています。そんなばかなことがあるかと思って日本のデータを見るとその通りでした。男性では10歳、女性では5歳も寿命が縮まるのです。

(4)ピラミッド(p35)
裁判離婚:調停離婚:協議離婚=2 : 9 : 89ですが、35ページの図から面積を計ると、2 : 22 : 763くらいに読み取れます。改訂版が出るようでしたら、普通の帯グラフにするのがお勧めです。

なお、33ページの図を見ると、どちらを養育者にするかについては、法理はあまり関係がないことがわかります。ご主人は法理を強調しておられますが、理屈は関係ないのです。理屈は後からつけられるだけです。

(5)子どもの権利条約(p126)
このあたりの書き方は、甘すぎるように思います。この条約は、日本の司法によって全く無視されています。国連・子どもの権利委員会の勧告も無視されています。

またこの本でも、「子どもの処遇を決めるに際しては子どもの意見を聞く」という原則が強調されていません。ご主人と同様です。心理学を学んでおられるのなら、幼い子どもとコミュニケーションをとる際の仕方について解説可能なはずです。また、子どもが会いたくないと言う場合の対応も必要です。(意見を聞く目的は、子どもが主役であることを、確認するため。同居親が言わせているだけ。医学的処置のように、子どもが嫌がっても会う)。

(6)隔週末(p149)
アメリカ合衆国の平均的な親子交流については、簡単に「隔週ごとに2泊3日」と書いておられます。それは、ご主人も同じです。しかし、在日アメリカ大使館は、次のように述べています。

「単独親権と面接交渉権から成る取り決めの下では、親権を持たない親(単独親権を持たない親)
 と子供が共に過ごす時間は、通常以下のように決められている」。

       ・隔週末(金曜の夜から日曜の夜までという場合が多い)
       ・週に一度平日の夜(通常夕食を含む)
       ・主な祝日のうち半数
       ・夏期の数週間

共同親権の場合はもっと多いわけです。柳川市の例では、父親が約4ヶ月で、母親が約8ヶ月です。たぶん、20年以上前にカリフォルニアに住んでおられた頃の話なのでしょう。

(7)姿を消す父親(p153)
非常に多くの父親は、子どもの視野から消えてゆくそうです。私は、これは親子関係が破壊された終末像であると考えています。母親が、子どもの争奪戦で完全勝利した瞬間でもあります。おろかな母親は、弁護士と裁判所に深く感謝することでしょう。動物の場合では、子の父親が消え去ると、後から来たオスによる子殺しが始まることがあります。日本の家庭裁判所では、こうした犯罪が助長されます。

(8)強制、命令(p164)
この本は、なかなか含蓄の深い本です。この事例1は、強制だけではうまく行かないことを示しています。母親は、子どもを内的に支配しており、子どももそれに呼応しています。そうして子どもの心は荒廃します。究極的には強制が必要ですが、その前に、充分な情報提供や教育が必要です。

(9)愛着理論(p233)
愛着理論が、この問題と関係するとは知りませんでした。調べてみようと思います。

行動主義の心理学では、愛着を次のように説明します。「子どもが母親に対して愛着を示すのは、母親の近くで食事をするなどの快感がしばしばあり、食物に対する欲求が、近くにいた母親に対する愛着に移って行ったのだ」。食事のたびにベルの音を聞かされた犬が、ベルの音を聞いて唾液を流すのと同じ仕組みで、母親に対する愛着が生じると説明するのです。

しかしハーロウ Harlow & Harlow は、チンパンジーの実験で、そうでないことを示しました。もう40年も前の実験です。

(10)韓国(p191)
韓国では、既に民法が改正されていると書かれています。近代的な家族法が制定されていることが書かれています。すでに充分に機能しているようです。

知りませんでした。1985年ごろの韓国では、親権と監護権は、全て父親に与えられていると何かに書いてありました。「子どもの権利と共同親権」という本を見ると、そういう状態は1990年まで続いたと分かります。また韓国では、姦通法があるとも聞いていました。ある人は以前、「離婚で親権が無くなるのは、世界でも日本と韓国だけ」と言っておられました。

しかし最近、韓国は一気に近代化して、没落する日本を追い抜いたのです。今回、金メダル6個、銀メダル6個を獲得しています。人口が2倍の日本は、銀メダル3個だけです。日本は世界の情勢を知らないのです。韓国からアメリカへの留学生は、日本からアメリカへの留学生より、多いです(VOAによる)。日本人よりも、ずっと熱心に学んでおられるだろうと思います。私のようにTOEIC775点では、HYUNDAY足切りに引っかかって入社できません。


棚瀬氏は、この本をお書きになったことでも分かるように、偉大な仕事をしておられます。棚瀬氏は、子どものために、大きな貢献をしておられます。世の中には、こんなに立派な人がおられると分かりました。

続く