拝啓
大使様
大使様
私のお願いは、ハーグ条約を批准することが必要な理由を、大使様が特に日本の財界首脳に対して説明して下さることです。
日本が、ハーグ条約を批准することは、最終の目標ではありません。日本がハーグ条約を批准するだけでは、何も変わらないでしょう。ハーグ条約の第13条2項には、次のように書かれています。「子どもが拉致された先の国の裁判所または行政機関は、子どもを元の居住地へ送還するかどうかを決定する」。
日本の裁判官は、離婚後は子どもは母親と暮らすことが最も子どものためになると考えています。また、父親との面会は、月に1回、3時間程度が最も良いと考えています。日本がハーグ条約を批准しても、このような判断は変わらないでしょう。
実際、日本は、既に子どもの権利条約を批准しています。しかし、裁判所は、子どもの権利条約を全く無視しています。子どもの権利条約が、裁判規範とされることは、ありません。ハーグ条約を待つまでもなく、子どもの権利条約には、「別居が始まれば、子どもは恒常的に、非同居と面会を行う」と書かれていますが、裁判所によって無視されています。こうした点について、国連子どもの権利委員会は、日本政府に対して、すでに2回、是正勧告を行っていますが、それも無視されているのです。(第1回)(第2回)。
柳川市の例では、当初にアメリカで行われた合意は、父親が約4ヶ月間、子どもと暮らし、母親が約8ヶ月間、子どもと暮らすというものでした。また、住所を変える時には、相手に、事前に同意を得るというものでした。
日本のような現状で、何が問題なのか、ほとんどの人は、分からないのです。日本は、情報の孤島にあります。
ほとんどの日本人が知らないのは、次のようなことです。
・親が離婚した子どもは、大きな精神的な衝撃を受けること。
・離婚後に親が争いをすると、子どもはとても悲しくなること。
・親は自分の感情だけで手一杯で、子どもの感情にまで気が回らないこと。
・欧米の家族法は、離婚に際して親子関係を存続させることを主な目的にしていること。
(日本の民法は、離婚に際して片親の親権を剥奪する)。
・離婚すると、平均的な収入は、父母、共に低下する。
・離婚すると、平均的な寿命は、父母、共に短くなる。(Linda Waiteによる)。
・アメリカでは、離婚後の面会について、大学の公開講座などが情報提供を行っている。
・アメリカでは、夫婦がうまくやっていくために必要となる技術について、公的機関が情報提供している。
(Healthy Marriage Initiative)、(The National Healthy Marriage Resource Center)
・親が離婚した子どもは、大きな精神的な衝撃を受けること。
・離婚後に親が争いをすると、子どもはとても悲しくなること。
・親は自分の感情だけで手一杯で、子どもの感情にまで気が回らないこと。
・欧米の家族法は、離婚に際して親子関係を存続させることを主な目的にしていること。
(日本の民法は、離婚に際して片親の親権を剥奪する)。
・離婚すると、平均的な収入は、父母、共に低下する。
・離婚すると、平均的な寿命は、父母、共に短くなる。(Linda Waiteによる)。
・アメリカでは、離婚後の面会について、大学の公開講座などが情報提供を行っている。
・アメリカでは、夫婦がうまくやっていくために必要となる技術について、公的機関が情報提供している。
(Healthy Marriage Initiative)、(The National Healthy Marriage Resource Center)
どの国でも昔は、離婚後には子どもは父親が監護した時代がありました。その後、逆に母親が監護するようになりました。しかし、1970年代に、アメリカの研究者Judith Wallersteinは、親が離婚した子どもの精神的な予後が良くないことを報告しました。子どもは、親の離婚により大きな精神的衝撃を受け、学業成績が低下し、思春期の問題を起こし、喫煙や飲酒をする者が増え、10代での妊娠が増え、社会に出てからの地位が低くなり、自分の結婚も破綻しやすいことが分かりました。月に2回(1回48時間)程度の面会では、多くの場合、父と子の親子関係は、切れてしまうのです。
その後の研究によれば、親が離婚した後に、子どもと親との関係が存続していれば、離婚の悪影響が最小に抑えられることが判明しています。子どもの利益は、親の利益でもあるはずです。
その後、欧米諸国は、家族法を改正し、親が子を奪い合うのではなく、両方の親子関係を存続させるような仕組みを作りました。夫婦は、離婚した後も、協力して子どもを育てて行くのです。
では日本において、ハーグ条約の批准に反対する勢力は、どういう人たちでしょうか。私は、弁護士と裁判官であると考えています。父と母が子どもを奪い合えば、紛争になって、調停や裁判が必要になります。争いのある離婚は、弁護士にとって収入をもたらします。
日本では、裁判官は65歳(一部は70歳)で定年退職します。多くの裁判官は、定年退職後は弁護士になります。ですから裁判官と弁護士の利害関係は、かなり一致しています。子どもの権利を守るべき裁判所が、それを侵害しているのは、自分達の利益のためです。
日本の弁護士や裁判所は、夫婦がどうすればうまくやれるかについて、情報提供をしていません。また、離婚後に具体的にどうすれば子どもに与えるダメージを少なくできるかについて、情報提供をしていません。
日本では、おびただしい数の裁判が上告により最高裁に持ち込まれますが、違憲判決は、戦後60年間に、わずか数件だけです。それも重要事項でなく枝葉末節の事項の違憲判決です。日本の裁判所は、権利の番人としての役割を果たしていません。
「人間を幸福にしない日本というシステム」(Karel van Wolferen)によれば、日本は浮動しているとのことです。日本の政治的指導者には、リーダーシップが無く、各種の圧力団体からの圧力に押されて浮動しているだけだということです(p168-177)。それは、その通りだと思います。
だから日本では現状に対して、自分から改革を行うことはなかなか困難です。現状は、現在の力関係を反映したものだからです。一つの圧力団体が新たに活動を行っても、政策は少し浮動するだけです。
日本の政治的指導者に圧力をかけた結果、ハーグ条約を批准するかもしれません。しかし、中心が少し浮動するだけで、子どもの処遇の実態は、あまり変わらないかもしれません
しかし、もしも日本の支配層が、離婚後の子どもの処遇を改善しなければならない理由を充分に理解するならば、うまく行く可能性は大いにあります。日本の支配層とは、たぶん経団連のような、大企業の連合体であろうと思います。
最近日本は、司法改革を行って、陪審制度を取り入れています。東大教授のダニエル・フット Daniel H. Footeは、近年の日本の司法改革について、次のように述べています。「日本の産業界は、欧米における経済活動の実践から、欧米の司法制度の長所を理解するようになっており、近年の日本の司法改革を支持している」。「裁判と社会」(p119-122)。
日本では自分からの改革はなかなか困難であるので、変革のためには、外圧は大いに歓迎されます。例えば、数年前には、WHOのたばこ条約による外圧によって、たばこの箱に、明確な注意書きを書かせることに成功しています。
欧米各国が、家族法を修正して、子どもの処遇を改善した時の状況を考えると、日本でも、そろそろそれが可能な時期に来ています。環境が整っています。
日本国民の多くが家族法改革の必要性を理解することが最も良いことですが、それには時間がかかります。とりあえず、支配層が理解することが必要です。これは「日本政府に対する欧米の圧力」の問題ではなく、「子どもが健全に発育するための科学的知識」の問題です。科学的知見について、説明すれば良いのです。アメリカ合衆国には、この問題の専門家が、大勢います。日本の産業界全体にとっても、従業員の子どもの発育がうまく行くことは、大きな利益です。
子どもの権利を守ることが必要です。そうして子どもの精神的予後を改善し、同時に父親と母親の幸福感を増すことが必要です。そのためには、子どもの親は2人だということを国の方針にして実践する必要があります。それが、可能な時期に来ています。情けないことに日本では自国ではできないので、外国の助力を期待しているのです。
敬具