前述の書「Fighting for Your Marriage」が勧めるコミュニケーションの技法は、以下のようです。(主に8章)。

(1)話し手と聞き手の技法 Speaker-Listener Technique
テレビのリモコンのようなものを持った人が発言権を持って、自分の意見を言います。聞き手はそれに反論せず、話し手が話した内容を自分の言葉で要約し復唱します。話し手が2~3の文を述べたら、リモコンを渡して交代します。

著者によれば、これが最も効果のある技法であるそうです。前にも申し上げたように、この技法に効果があるということは、我々のコミュニケーションは、相手の意見をよく聞かないので失敗しているということです。

我々が関心を持つ対象のほとんどは、我々自身に関することです。相手の事情を知らないのに、一方的に自分のことだけ主張しています。言い争いの時には、コミュニケーションになっていません。

「意見は異なるが、仲が良い」という状態は、可能です。立場が異なれば、利害関係も異なります。交渉の出発点として、相互に尊重すれば良いのです。妥協案を実際に作成しなくても、相互に理解して相手を尊重すれば問題が解消する場合も多くあります。

(2)時間切れ Time out
論争がエスカレートしそうになったら、時間切れにして、また後日話をすることにします。囚人のジレンマのような状況で、最も優れているのは「仕返し戦略」です。我々には、仕返しをする習性があります。不愉快な目に遭うと、報復攻撃をします。相互に報復攻撃をすれば、攻撃が永久に続くことになります。不毛な攻撃の連続は、単に止めれば良いのです。

(3)話を別の機会にすること
話し手は、いつでも話をスタートさせることができますが、聞き手は「別の機会にして下さい」と言って、日時を指定することができます。1~2日後の適当な時間を指定するのが勧められています。

週末の楽しい行事が始まろうとする矢先に、意見の違いが露呈したような場合、その場で話し合いを始める必要はありません。翌日にでもすれば良いのです。そうしてその日は、そのまま楽しいことをすれば良いのです。「話し合うこと」と「楽しいこと」を区別しなければなりません。意見の食い違いがあっても、良好な関係を保つことは可能なのです。

夫が夜遅くまで働いて疲れて帰宅し、翌日も朝早く出勤するような時には、二人の関係改善のための話し合いをする適当な時間ではありません。しかし、往々にして、そういう場合に嫁さんが泣いて荒れることが有るのだそうです。

問題提起→話し合い→解決案作成は、今すぐする必要はありません。大切な作業ですが、後日時間のある時にすれば良いのです。

また、「話し合い」と「問題解決」も区別されなければなりません。話し合いが先で、問題解決が後です。話し合いにより、相互の事情を理解することが必要です。話し合いにより相手の事情が分かって、それを尊重すれば、具体的な解決案の作成が不要になることもあります。

(4)撤退 Withdrawalを避けること
二人の関係のために、論争を避けようとして、引きこもったとすれば、それは大きな誤りです。撤退には、関係を破壊する力があります。

ハーリ博士も、二人の関係が「撤退」から「争い」に移行したのならば、それは二人の関係にとって良い徴候であり、良い方向への変化であると述べています(結婚後の心の3段階)。

撤退は、係わり自体を否定するということです。相手に対する最大の攻撃でもあります。コミュニケーションが無ければ、相手は何を説明すればよいのかも分かりません。

関係の改善を目指すのなら、話し合い自体を避けることは、得策ではありません。相手との意見の違いに、目を背けることなく直面し、相手の利益を考慮し尊重する必要があるのです。話し合いと争いは、別のものです。

(5)少なくとも週に1回は話し合いの時間を持つこと
著者は、毎週決まった時間に話をすることを勧めています。30分でも多くのことを話し合えると述べています。話しをすることが特に無いような場合でも「もし、‥‥の場合には」のように話をすることができると述べています。

お金のこと、家事分担のこと、子どものこと、セックスのことなどを充分に話し合って、相互の納得と了解を得るのは重要なことです。また普段から、生きる目標、死、結婚に期待することなどについて、相手と意見を交換しておけば、家庭の維持運営が円滑に行えます。

ハーリ博士は、週に少なくとも15時間は、子ども抜き、テレビ無しの時間が必要であると述べています(The Policy of Undivided Attention)。15時間の大半は、話し合いではなく、楽しい活動で良いわけです。