オバマ大統領は、ハーバード大のロースクールを卒業しています。ハーバード大は、1970年代より交渉の研究を行っており、世界の主導的な地位を占めています。

ハーバード大の本など、欧米の交渉本は、相互に満足するwin-winの解決を目指すものです。しかし、全ての交渉がうまく行くことを保証しているわけではありません。高価な商品を安く買おうとしても、始めから無理なこともあります。また逆に、交渉の必要も無く、始めからうまく行われている取引もあります。

通常ではうまく行かないけれども、欧米の交渉本を読んでうまく行くのは、どんな場合でしょうか。それは次のような場合です。

(1)オレンジの例
多くの本に載っている例です。一つのオレンジを求めて2人の姉妹で争っていたのですが、実は姉はオレンジの皮だけ欲しかったことが分かり、2人とも自分の求めるものを手に入れたという例です。真に求めているものが何であるかをよくコミュニケーションすることが必要です。

(2)野球選手の例
お金は誰でも欲しいものかもしれません。野球選手の年俸交渉がうまく進まない時に、出来高払い制を取り入れると話がまとまることがあります。これは、次期シーズンの活躍の予測に差がある場合などに有効です。選手と球団との評価の差がどこにあるかを突き止めて、それに合致するように年俸を決めるのです。

(3)ケーキを分け合う例
ケーキを2人で分ける場合に、一人がケーキを切って、他方が選択するやり方です。遺産を2人で分ける場合に実際にこの方法で行われることもあるそうです。分ける人は、自分の主観的価値で50対50に分けるのでしょう。選択する人は、自分の主観的価値の高い方を選択できるので、得である気がします。もっとも、金銭的価値を60対40になるように分けて、思い出の品々を40の方に入れて全部を貰うというような分け方も可能かもしれません。

(4)自分の立場を固執しないこと、安易な妥協はしないこと
互いに自分の立場に固執して、自分の立場を有利にするための手段として主張しあうような状態では、交渉は進展しません。交渉は戦いとなり、どちらが勝っても、相互に満足する解決は得られません。

また逆に、簡単に譲ってしまえば、交渉自体は容易に完結しますが、自分自身の長期的な満足は得られません。まず必要であるのは、自分の意見を充分に表明し、また相手の意見を充分に聞くことです。

(5)共同の問題の解決者になること
相互の意見を充分に把握した後に、両者は「争う者」ではなく、「共同で解決を模索する者」になって、どうすれば歩み寄れるかを模索するのです。

また、「共同の利益」を考えることも重要です。金銭の多寡だけが問題になる場合でも、本当に重要なのは相互に経済的に安定して繁栄することであるなど、目先の利益だけが問題では無い場合もあります。

(6)アイデアを出すこと
可能な案を、相互になるべくたくさん出すことです。選択肢を増やします。それをする中で、相手の希望や、自分の希望がより明らかになります。「○○してくれたら、△△します」という条件付きの提案も重要です。選択の幅が広がれば、合意の可能性が高まります。

ただし、購入最低価格など、伏せておく必要のある情報もあります。

(7)原則、客観的基準、公平さに従うこと
「ハーバード流交渉術」(P156) は、次のように述べています。「原則や基準は、圧力に屈しそうになるのを阻止する、意思の強固なパートナーの役割を果たす。つまり、『正義は力』の論理である」。

「原則」は、人類の知恵が、あなたに贈る愛のプレゼントです。

(8)調停者をたてる場合
2人の間で交渉が行き詰まった場合、第3者の調停者を立てることも考えられます。調停者が「原則、客観的基準、公平さ」をもたらしてくれることを期待するわけです。

しかし、調停者にも自分自身の利益があります。紛争が長引くほど収入が増えたり、逆に無理な妥協を当事者に強いたりすることがあります。

(9)交渉に関与する人数を減らすこと
交渉に別の人が関与すると、その別の人の利益を考慮しなければならなくなります。3人の利益を考慮することになり、交渉は格段に複雑化します。権限を持った2人だけの交渉が望ましく、別の人を排除する必要があります。

(10)人間の短所を意識すること
人間には誰でも次のような傾向があります。これを充分に意識して防ぐ必要があります。

①相手の意図を悪く受け取る
②仕返しをする
③戦いになると勝とうとする

①‥‥自分の意図を充分に説明し、相手の意図を充分に聞かなければなりません。
②③‥自分が戦いに勝つことではなく、相互に心からの満足を得ることが目標です。

(11)科学を信頼すること
ハーバード大の研究を始めとして、人文科学、社会科学においても、科学的な手法を用いた膨大で詳細な研究が行われています。既に一定の結論が得られている事柄もあります。国連やユニセフなどの国際機関や、欧米の政府機関が、採用する「原則」にまでなっていることもあります。そうした科学の手続きを信頼して、その結論を学んで「原則」を取り入れることにより、多くの恩恵を受けることが可能になります。


<参考文献>
・ハーバード流交渉術
・新ハーバード流交渉術
・ハーバード流NOと言わせない交渉術
・言いにくいことをうまく伝える会話術
・言いにくいことを上手に伝えるスマート対話術
・言いたいことがなぜ言えないのか
・交渉力
・交渉術(馬英華氏)
・無理せずに勝てる交渉術
・You Can Negotiate Anything
・Negotiating Rationally
 (邦訳)交渉の認知心理学