1970年代までは、欧米では、特に離婚が悪いとも考えられていませんでした。独身時代には、付き合う人を何人か変えることは、よくあることです。結婚前に別れるか、結婚後に別れるかというだけの違いであると考えられていました。ところが、1970年代に、アメリカのジュディス・ワーラーシュタインは、親が離婚した子どもを調査して、親が離婚した子どもは心に打撃を受けており、学業成績が悪く、社会に出てからの地位も低く、自身の結婚生活も破綻に終わりやすいことを報告しました。ワーラーシュタインの報告は、大きな議論を呼び、その後世界各国で詳細に追跡調査が行われましたが、いずれも、ワーラーシュタインの報告を支持する内容でした。
その後、子どもの精神的な予後を改善させるための調査研究が行われました。親が離婚した場合でも、子どもの精神的な打撃を小さくするための条件が調べられました。両親の対立が少なく、近くに住んで、育児の時間が半分ずつに近く、両親が再婚していない場合には、子どもの痛手は小さくなります。もちろん子どものためのお金がたくさんある場合には、子どもの状態は良くなります。また、子どもを取引の道具として扱うのではなく、一人の人間として尊重して、事情を説明し、意見を聞くなどすることが必要です。両方の親との関係を保つことは、子どもの権利として擁護する必要があります。これらは、子どもの権利条約にまとめられています。
1970年代にはアメリカの離婚率は50%を超えるまでになりました。当時は、離婚しかけたカップルの離婚を止めるための知識はありませんでした。また「離婚するカップルと、円満なカップルはどこが違うか」について、何も知られていませんでした。しかし、そのころアメリカの心理学関係者は、離婚を止めるための方法を模索し始めました。特に大学の心理学関係者は、観察・調査を通じて、次第に知識を蓄積して行きました。
離婚するカップルも円満なカップルも、同じように意見が対立します。違うのはその対処の仕方です。円満なカップルでは、豊富なコミュニケーションを通じて交渉を行い、双方が納得するような妥協点を探すのです。これに対して、離婚するカップルでは、片方が一方的に自論を押し付けたり、同意も無くて放棄したりするのです。つまり、離婚するカップルは、コミュニケーションを通じて意見の対立を解決するする方法を知らないということです。
アメリカの大学の公開講座や、アメリカ厚生省は、結婚する人や結婚した人に対して、結婚生活を維持するのに必要となるコミュニケーションの質と量や、意見の対立を解決する仕方について、社会教育の教室を開催しています。また、インターネットを通じた情報提供を行っています。
日本の家庭裁判所とその関係者は、健全な家庭生活を維持するために必要な知識・技術を持っていません。情報提供をしていません。アメリカの1970年代と同じ状態にあります。弁護士は、対立させて離婚させると、収入になりますが、夫婦の問題を円満に解決しても収入にはなりません。日本では、各業界の利益が、その他の国民の利益より優先されています。家庭裁判所でしていることが、逆なのです。
子どもを尊重して精神的な予後を改善させる手段は、子どもの権利条約の他にもいろいろあります。子どもの権利条約に書かれている内容は、その一部分に過ぎません。日本の家庭裁判所とその関係者は、こうした点についての情報提供をしていません。子どもの予後を良くするための知識を持っていません。子どもの権利条約自体を無視しています。
神田昌典氏は「日本は情報鎖国の状態にある」と述べておられますが、予防医学に関してそうであると思います。