渡邊昌先生は、国立がんセンターの疫学部長をしておられました。現在は、東京農業大学の教授をしておられます。

食事でがんは防げる」、2004年、光文社

この本は、非常に優れた本で、がんを予防する上で食事が重要であることがよく分かります。WHOやCDCによる知見を踏まえたものです。万人が教科書とすべき本であると思います。

この本の119ページを見ると、アルコール摂取量と死亡率の関連を示すグラフがあります。週に1-149グラムのアルコールを摂取すると、がんによる死亡率が半分に減るというグラフです。毎日、日本酒で0.5合くらい飲むと、がんによる死亡が半分になるということです。しかし、別のグラフでは、そんなに減っていません。

この本の183ページを見ると、日本版の食品ピラミッドが掲載されています。各国で使われている食品ピラミッドの日本版です。渡邊先生が作られたものです。非常に分かりやすい図です。一般の人は「バランスの良い食事」といっても、何をどれだけ食べればよいのか知りません。この図は、非常に有意義です。この図には以下のことが書かれています。
  (1)穀類は1日に400グラムを摂取
  (2)肉、魚、豆は1日に100~200グラムを摂取
  (3)野菜は1日に350グラムを摂取
  (4)くだものは1日に100~200グラムを摂取
  (5)茶、乳製品は1日に100~150グラムを摂取
  (6)みそ、香辛料、ハーブ、キノコ、海草、ナッツを20~30グラム

しかし、(5)については、意見があります。茶というのは、主成分は「カフェイン」です。カフェインは「ダメ絶対」のホームページにも出てくる習慣性の化学物質です。この本にも記載されているようにがんを減らす働きはありません。多くの人が薬物中毒になっているというだけのことです。これに対して、牛乳には多くの栄養素が含まれています。お茶が乳製品と代替になるわけがありません。多くの人は、カフェイン中毒になっており、1日に150グラム以上のお茶を飲みます。そうなら、ほとんどの人は乳製品を摂取してはいけないということでしょうか。
植物の場合では、リービッヒの最少律、ドベネックの桶があります。またアミノ酸の場合も、アミノ酸の桶があります。栄養素同士の相互作用があるので、これらの法則はそのままでは成り立ちませんが、栄養補給を考える上では、必要なイメージです。
牛乳は、多くの栄養素を含んでいるので、ダイエットをする上での安全性を高めてくれます。お茶などに置き換えない方がお勧めです。

(6)にも意見があります。
食物ピラミッドの最上段は、元のピラミッドでは脂肪と砂糖でした。英語では Use sparingly と書かれています。これを「できるだけ少なく」と訳しておられますが、「制限して使え」とか「節約して使え」ということです。
「脂肪は毒物のようなもので少なければ少ない程よい」ということではありません。必須の栄養素です。必須脂肪酸という言葉があります。現状では摂りすぎている人が多いというだけです。厚生労働省が定めた「栄養所要量」というのがあります。栄養所要量というのは不足症を防ぐのに必要な分量ということです。脂肪の栄養所要量は、年齢で異なりますが、例えば20歳の人は全エネルギーの20~25%を脂肪で摂取することになっています。飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸について細部の規定があります。
糖尿病の食品交換表においても、表5の食品を毎日摂取することになっています。表5の食品は、油脂、多脂性食品です。「できるだけ少なく」ということではありません。

渡辺先生の食物ピラミッドを実践すると1日に1600キロカロリーくらいになるそうですが、それは誰が実践するのでしょうか。普通の健康な大人が実践するのでしょうか。厚生労働省の栄養所要量では、例えば20歳男性で生活活動強度が高い人は1日に2950カロリーを摂取することになっています。これより少ないと、不足症が起きる恐れがあります。

米国の食物ピラミッドにおいても、最近では性・年齢・生活活動強度により、その人ごとに必要カロリー数、必要単位数を教えてくれるようになっています。しかし、この私の指摘は、言わば「じゃんけんの後出し」です。渡辺先生が今この本をお書きになるのであれば、当然このことを踏まえてお書きになるのだろうと思います。

国立がんセンターにいる内科医は、非常に優秀な医者です。しかし、栄養学の高等教育は受けていないのだろうと思います。また、パラメディカルの栄養士さんも、実学としての栄養学の教育を受けていても、アカデミックな網羅的な高等教育は受けていないのだろうと思います。

患者さんは、バランスの良い食事をするために、何をどのくらい食べれば良いかについては、実際には知りません。それを知っている人を見たことはありません。また、テレビで納豆が肥満に良いという番組があった時に、スーパーでしばらく納豆が売り切れになりました。これが日本の現状です。

(私の7月4日の記事につづく)