ダイオキシン国民会議の主張は、おそらく次の(1)(2)ということであると思われます。(1)ダイオキシンについて調査研究しよう。(2)環境からダイオキシンを減らそう。
ダイオキシン国民会議のメンバーは、「こんなに正しい主張を、なぜ反対勢力は批判するのだろうか」と思っておられると想像します。

簡単に答えるのなら、もちろん(1)も(2)も特に誤りではありません。しかしながら、欧米で研究は進んでおり、以前危惧していたほどの危険性は無いことが、すでに判明しているのです。WHOやアメリカの政府機関は、ダイオキシンに関して食事制限などの生活制限を呼びかけていないようです。また、10年前に比較して、環境中のダイオキシンは、すでに半減しています。

お金が無限にあるのなら、いくらでも研究をすれば良いのです。また環境中からいくらでも減らせば良いのです。しかし、お金は無限にはありません。リスクを評価して、適正な規模の対策に留める必要があります。

松井氏の研究は要するに「ダイオキシンが生体に作用する仕組みは、発がん物質が生体に作用する仕組みと共通性があり、またナノ物質の有害性とも共通性がある」ということでしょう。もし、その通りだとしても、それはダイオキシンの有害さの度合いに関する欧米の研究をくつがえすようなものではありません。松井氏の研究により、欧米においてダイオキシンの環境基準値が見直されたわけでもありません。そのような研究があるのなら、裁判所に証拠として提出しているでしょう。無いのです。欧米の研究に影響を与えていないのです。

リスクは、相互にトレードオフの関係になることがあります。つまり、あちらを立てれば、こちらが立たなくなることがあります。リスク対策をするとお金がかかりますから、たいていのリスクは、お金の減少というリスクと、トレードオフの関係になっています。

だから、ダイオキシン国民会議のように、リスクを一つだけ取り上げても片手落ちです。リスク全体の中で評価する必要があります。

例えば、水道水には塩素が入っており、水道水中の塩素は、トリハロメタンという発がん物質に変わります。しかし、その危険性だけを取り上げるのは、片手落ちです。「どのような水を飲むのが最も安全か」という点から考えなければなりません。実際、埼玉のある幼稚園の園長さんは、発がん物質が含まれる水道水をやめて、井戸水を園児に飲ませたところ、井戸水に病原性大腸菌Oー157が混入し、160名が発症し、うち2名の園児が死亡したのでした。
ペットボトルの水にも、それなりの問題があります。お金がかかるとか、ふんだんに飲めないとか、時に切れてしまうとか、何かが混入しているかもしれないとかです。
私は、もっぱら水道水を飲んでいます。

ダイオキシンは母乳に含まれています。その一方で、母乳の方がミルクよりも、栄養的にも免疫学的にも優れており、母乳で育つ子どもの方が、病気が少なくて死亡も少なくなっています。ダイオキシンの危険は小さく、母乳の利点は大きいので、各国の政府機関や、国際機関は、母乳保育を薦めています。ダイオキシンの危険を過度に強調すると、不安により、せっかくの母乳をあきらめて、ミルクに変更する人が出てくるかもしれません。
http://www.nord-ise.com/rcweb/Risk/risk-3.html
このサイトによれば、女性セブン(97年3月6日号)は、「ダイオキシン母乳が赤ちゃんの命を奪う」という記事を書いたのだそうです。

だから、ダイオキシン国民会議の人も、主張(1)(2)を述べると同時に、「ただし、ダイオキシンの危険はあまり大きくなくて、母乳の利点は大きいので、赤ちゃんは母乳を飲んで下さい」などと付け加えるべきです。そうすれば、赤ちゃんに害を与えることは少なくなるでしょう。

ダイオキシン国民会議の人々は、リスク評価とリスク・コミュニケーションの初歩を勉強して実践すべきなのです。健康問題に発言するためには、必要なことです。

青山所長や松井氏は、自分たちの直接的な利益のために、ダイオキシンの危険性を過度に強調するでしょう。それは、迷惑なのです。