優子の空 1 | 渡夢太郎家の猫

渡夢太郎家の猫

2008年 3月に蘭丸の2度目の子供ができました
これで、我が家は9匹の猫です

優子は上野恩師公園の

人の行列を歩きながら

空を見上げ桜の花のトンネルを

一人歩きながら囁いた

「お父親さん、今年もさくらが咲きました。

一緒に行く約束が果たせなかった不忍池のお花見

行って来ます。優子もすっかり元気になりました

お父さん・・・・・・」

1月7日

病床の義明は珍しくテレビが

見たいと言って相撲を見ていた。

「じゃあ私帰るね」

「そうか、帰るのか」

義明は寂しそうな顔をしていた。

「うん、明日仕事早いから」

「そうか、いつも面倒かけて悪いなあ」

「元気になったらお花見に行こうね」

「ああ、不忍池にな」

その日の夜、義明は逝った。

自ら点滴を抜き酸素吸入器をはずし、

看護師が気が付いたのは夜中の2時だった。

2月28日、優子は25歳になった。

もうすぐ春だというのにまだ

寒くピンクのマフラーを

口元まで回して有楽町の駅から歩いた


夕方6時銀座三越のライオン前で男は待っていた。
前もってメールで送った写真で

優子の顔を知っていた男は優子に

気づき横断歩道の途中で、

右手に大きな黒いかばんを持ち、

左手で手を大きく振っていた。
思わず優子は笑って軽く手をあげた。


彼は太っていて間違いなく

メタボリック症候群の太鼓腹だった。
「こんばんは、佐藤です」
「大原です」

優子はまだ笑いが止まらず、

佐藤の肩をたたいた。

「おかしいですか。どうします。食事でも」
佐藤は携帯出合いサイトは

さくらが多く会えないと

思っていたらしく優子にとても

気を使っている様子だった。

「大原さんは何処にお住まいですか?」
冬なのにしわくちゃのハンカチで

汗を拭く姿はいかにも

臭そうな感じでとても嫌だった

「いつもの通り今日はこれで3万円になる」

優子は自分に言い聞かせた
「埼玉です」

「ああ、遠いですね」

「ええ、近く引越しをしたいんですけど、お金が」

「そうですね、費用がかかりますよね」
「私アイスクリームが食べたい。」

優子がそう言うと、 佐藤は驚いたように

まわりも見渡した。 
「ここに有ります」優子は三越の二階をさした。
「なるほど気がつかなかった。ははは」


デパートの入り口の螺旋階段を

登ると二人は、窓際の席に案内された。
「わー良く見える。一度ここに来たかった」
「そんなに感動されると照れますね」
「私はバニラアイスクリーム」
佐藤はアイスコーヒーを頼んだ
「初めての感じしませんね」
「ええ」


「時間は?」
「9時には帰りたいんですけど」

佐藤は時間を計算している様子だった。

確かに、銀座から安いラブホテルへ行くには

鶯谷、池袋、新宿、渋谷界隈にまで何処へ向かっても30分はかかる。

優子はそれも計算して銀座を選んだのだった

「今日私の誕生日なの」優子は笑った
「えっ、本当。じゃあ何かケーキでも」

佐藤は慌てた様子で答えた
「気にしないで、これで充分」
「アイスクリーム好きなんです」
「ええ、たった一つの幸せの思い出なの」
「たった一つの」
「ええ、たった一つ」