五月のとある月曜日の朝、私は阿呆のようにへろへろと歩いて出勤中だった。
「阿呆のようにへろへろと」は特に重要ではなく、いつも通りなので気にしないでくれ。
ふと背後に人の気配を感じた。
私は諜報員でも忍者でも武道の達人でもないが、背後に気配を感じたら身を守るために振り向くのだ。
「ぎゃあああああ、ごめんなさい~!」
私が振り向ききるより早く、悲鳴と共に左ひざの後ろに強い圧力を感じた。
女子高生の自転車が私の左足に激突したのだ!
…特に痛くもなく、服の破れとかもなかった。
しいて言うなら突如自転車で「膝かっくん」された感じでバランスは崩したが、私は踏ん張った。
「すみません~、あぁびっくりした~!」
素っ頓狂に謝る彼女に対し、びっくりしたのはこっちだ!
と返したかったが、その時はとっさに出てこなかった。
頭を下げながら立ち去る彼女に対し「気をつけて行けよ~」などと間の抜けた声をかけつつ、
会社へ向かった私。
その日の夜に、自転車で私を轢いた女子高生の顔を思い出そうとしたが、なかなか出てこない。
髪型はどんなだったっけか?
たしか、目は大きかった気がする。
そう言えば、誰かに似てたな…
オードリーヘップバーンだ!
絵にしてみた。

【女子高生①~オードリーヘップバーン】
そうだ!
たしかにこんな娘だった!
それから数日、同じ週の木曜朝。
私は自転車激突娘のことなどけろっと忘れて、阿呆のようにへろへろと徒歩出勤していた。
道端に女の子がしゃがみこんでいる。
自転車のチェーンがはずれてしまったらしい。
困ってるんだろうな、直してやるか?
でも、直そうとして手に負えなかったらどえらいカッコ悪いし、逆に恨まれそうだし。
だいたい最近は少女に声なんかかけると、悲鳴あげられて警察官が飛んでくる世の中だし。
でも困ってそうだし。
迷いつつ彼女の横を通る私を、(当日は晴天だったが)雨に濡れた子犬のような瞳で見上げたのは…
月曜に私を轢いた女子高生だった!
「チェーン外れた?」
「はい…」
「直せるかわからんけど、見してみ。」
…私はあっさりと迷いを乗り越えてしまった。
サビサビのチェーンを後輪のスプロケットにはめるには多少難儀したが、3分ほどで何とかなった。
「ほんとうにありがとうございました~!」
女子高生は元気に礼を言いつつ走り去った。
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実は私にはショッキングなことがある。
月曜に彼女の顔を思い出して絵にしたはずだったが、実物とは全く違っていたのだ!
あらためて木曜昼に15秒で描いてみた彼女だ。

【女子高生②-1~強力招来】
何が違うって髪の長さがまるで違う。
この絵はあまりにあまりだったので、木曜夜にきちんと絵にしてみた。

【女子高生②-2~超力招来】
…きちんとはしてないが。
…①月曜と②木曜の二枚の絵が同一人物とは、100人いたら100人思わないに違いない。
その上、②-1木曜昼から②-2木曜夜に至る段階で、既に私の記憶は歪み改竄されている。
結論。
人間の記憶は当てにならない。
犯罪捜査における目撃証言など信じられない。
百歩譲って世の人はそうではないかもしれないが…
私の場合、相手が女の子だったりすると記憶はほぼ嘘に近い!
そもそも、昔の漫画だったら運命の出逢いとしか考えられないような二度の女子高生との遭遇…
本当にあったことなのだろうか?
もう自分が信じられない…。
じゃまた~!