夜遅く残業中に、事務所の廊下に何かが蠢いていた。
近寄ってみたら…蜻蛉だった。

おおぉ、其処許も残業でござるか、お互い辛うござるな…
次の瞬間、蜻蛉は、ひらひらと舞った。

普通の蜻蛉は一直線で攻撃的に飛びつつホバリングも難なくこなすが、こいつは蝶のようにたおやかに羽ばたく。
静まりかえった廊下に、その羽ばたきの音が小さくパタパタと響いた。
この蜻蛉、ハグロトンボと言うらしい。
川や滝の傍といった、主に水辺や湿地にいるようだが、なぜか私は夜の会社やアパートのピロティでよく出逢う。
そんなハグロトンボが、私には人に見えて仕方ない。
それも美しき女性だ。
具体的に描写すると、極端に疲れていて、そもそも身体の弱い美女。
たまに咳きこんだりもする。
だからこの蜻蛉も私が守ってやりたかったのだが…
すこぶる元気にどっかへ飛んでった。
だめだこりゃ!
じゃまた!