街を歩いていて、一人の人とすれ違う。

あれ、知ってる人か?と、ふりかえりながら、はっと気づく。
…ずっと昔に好きだった人。若さゆえに別れてしまったほろ苦い想い出。
思わず踵を返し、追いついたが、声をかけようかどうしようか一瞬迷う。
次の瞬間、その想い出の人は振り向いて微笑み、陽炎のようにたち消えた。
妖怪想い出霞である。

想い出霞は、寂しい人の心の奥から、美しい想い出を読み取って具現化させる妖怪だ。

冷静に考えれば、何十年も昔の想い人が、当時と変わらぬ姿の筈がないのだが、想い出はいつまでも美しいままなのである。
人の心の奥にズケズケと入ってくるこの妖怪を、忌み嫌う人が多いのは確かだ。
ただ、懐かしく美しい想い出を呼び起こされ、胸が熱くなる人もまた多い。
単に他人の空似だったり、希に想い出の人の子供だったりすることもあるが、その時は相手が霞のように消えることは無い。