そうだ。この匂いだ。
私の独りよがりなお話を聞いてくださいますか?
幼稚園時代に2年ほど、東京で過ごしていたことがありました。
初台にあった幼稚園に通っていた頃の、鮮明に記憶しているワンシーン。
その日もまた湿気があって、見上げればきっとそこにはお日様があるんだろうけど、でももやがかって見えない、そんな天気でした。
母が迎えに来てくれて、
幼稚園の向かえにいつも来ていた移動式八百屋さんで、
私の大嫌いな空豆と、
私の大好きな桃と、
私が普通に好きなオレンジを、
紙袋から溢れる位に買って行く。
それをもって、私を連れてバスに乗り込む。
当時の都営バスは、床が木製だったのを記憶しています。
1番後ろに乗って、次のお稽古事に備え、着替えるのが常でした。
1日に幾つものお稽古事を掛け持ちしていたのを今考えると、なんて忙しい幼稚園児だったんだと思う。
水筒を母からもらって、みんなみたいに口をつけてごくごく飲みたかったが、しつけの厳しい母によっていつもそれは阻まれ、水筒のキャップに注いだポカリスエットを上品に飲んでいた。
そんなとき、突如としてバスが急ブレーキをかけた。
と同時に、八百屋さんの紙袋から、私が普通に好きなオレンジを筆頭に、大好きな桃、大嫌いな空豆がバラバラと、木製の床へと転がっていった。
バラバラと落ち、前方まで転がって行く、オレンジ色、ピンク色、緑色が、木製の茶色い床に色鮮やかに散っていったのを見て、なんだか切ない気持ちになった。
なぜなら、それらを追いかける母の姿がなんだか、すごく可哀想に思えたから。
当時の母は、私の小学校受験に向けて鬼の形相を毎日きれいに保ち続けていた。
お受験の面接練習のために録画したビデオを見る度に、その顔を思い出す。
そんな常に強気で戦闘態勢だった母が、バスの前方まで転がったオレンジと桃と空豆を追いかける。
そんなギャップが私にそのようないたたまれない感情を生ませたのだと思う。
私が母に対してそのようないたたまれない気持ちを抱いたのはその後4回ほどだった。
この気分になるのは正直あまり好きではない。
その日の匂いがする。
今日の東京。
決して良い思いでではないけれど、バラバラと鮮やかに転がるオレンジ、ピンク、グリーンが忘れられない。
私の独りよがりなお話を聞いてくださいますか?
幼稚園時代に2年ほど、東京で過ごしていたことがありました。
初台にあった幼稚園に通っていた頃の、鮮明に記憶しているワンシーン。
その日もまた湿気があって、見上げればきっとそこにはお日様があるんだろうけど、でももやがかって見えない、そんな天気でした。
母が迎えに来てくれて、
幼稚園の向かえにいつも来ていた移動式八百屋さんで、
私の大嫌いな空豆と、
私の大好きな桃と、
私が普通に好きなオレンジを、
紙袋から溢れる位に買って行く。
それをもって、私を連れてバスに乗り込む。
当時の都営バスは、床が木製だったのを記憶しています。
1番後ろに乗って、次のお稽古事に備え、着替えるのが常でした。
1日に幾つものお稽古事を掛け持ちしていたのを今考えると、なんて忙しい幼稚園児だったんだと思う。
水筒を母からもらって、みんなみたいに口をつけてごくごく飲みたかったが、しつけの厳しい母によっていつもそれは阻まれ、水筒のキャップに注いだポカリスエットを上品に飲んでいた。
そんなとき、突如としてバスが急ブレーキをかけた。
と同時に、八百屋さんの紙袋から、私が普通に好きなオレンジを筆頭に、大好きな桃、大嫌いな空豆がバラバラと、木製の床へと転がっていった。
バラバラと落ち、前方まで転がって行く、オレンジ色、ピンク色、緑色が、木製の茶色い床に色鮮やかに散っていったのを見て、なんだか切ない気持ちになった。
なぜなら、それらを追いかける母の姿がなんだか、すごく可哀想に思えたから。
当時の母は、私の小学校受験に向けて鬼の形相を毎日きれいに保ち続けていた。
お受験の面接練習のために録画したビデオを見る度に、その顔を思い出す。
そんな常に強気で戦闘態勢だった母が、バスの前方まで転がったオレンジと桃と空豆を追いかける。
そんなギャップが私にそのようないたたまれない感情を生ませたのだと思う。
私が母に対してそのようないたたまれない気持ちを抱いたのはその後4回ほどだった。
この気分になるのは正直あまり好きではない。
その日の匂いがする。
今日の東京。
決して良い思いでではないけれど、バラバラと鮮やかに転がるオレンジ、ピンク、グリーンが忘れられない。