第9章 chocolat




その7



トリュフを作ろうと材料の入った

買い物袋を抱えた私たちは、

乙女そのものだった。

そのまま みゆきの家にお邪魔して

キッチンを借りた。


チョコレートを細かく刻みながら、

みゆきが かおりに

生クリームを用意してと指示を出す。

私は湯煎の準備をする。

かおりと私がチョコレートを溶かしているところに、

かおりが温めた生クリームを流し込んだ。

甘い匂いが キッチンに広がっていく。


「お湯熱すぎひんかな?」


と、心配そうなみゆきに、私も


「こんなもんちゃうの?!」


としか答えようがない。


「大丈夫やて。この材料で 

美味しくないわけがないやんな」


鼻をクンクンして、かおりはご機嫌だ。



「失敗は許されないゾ……」


みゆきはレシピをじっと見つめて、呟いた。


「手作りチョコなんて初めて……

なんか照れるなぁ……」


料理初心者の3人が、

それぞれの想いを

このチョコレートに託す。


今年のバレンタインは平日。

学校では没収された女の子が

毎年何人か泣いているから、

私はバレンタイン前の休日に

オカダをどこかに誘おうと思っている。


どこに誘おうかな。

いつも学校帰りに

公園で話をしているくらいだから、

どこかに出掛けたいな。


かおりは江藤とどこに行くんだろう?

みゆきは先輩にいつ渡すんだろう?


「今年もオカダに 

チョコあげようとする子おるんかな?」


とかおりが呟いたのを聞いて、

ハッとした。


「え?」


「江藤から聞いた話やと、

去年は結構貰ったみたいやで」


「そんなん〇〇がおるから、

貰わへんのとちゃうん?!


「でもオカダって、そういうの

流れで受け取っちゃいそうやん?」


そうだ。後輩から 黄色い声で呼ばれると、

いつだってニッコリ笑って 

丁寧にみんなに返事をするような人だ。

モテる彼氏は 誇りに思えるけど、

やっぱりヤキモキする。


「〇〇、そういうのイヤやでって 

ハッキリ言っときなよ!?

江藤と違って カッコええねんから」


詰め寄るかおりには、うんと返事したけど、

そんな事言えそうになかった。


冷やしたチョコレートを

冷蔵庫から取り出し、

ラップで形を整える。

かおりは ハート型らしきものを作っていた。


「ハート?だよね」


「そだよ。こういう形にしとけば、

多分 江藤は倍喜ぶからな」


「先輩にハート型あげるのは、

ハードルが高いなぁ。

チョコあげるんで 精一杯やから」


「あしも照れくさいから 

普通のまるいんでええわ」


「なんや、2人とも

せっかくのバレンタインやのに。

あ、味見してみようよ」


ココアパウダーを振りかけて 

完成した試食用の小さいチョコを 

それぞれ口にする。


「おいしい!」


3人が声を揃えて 目を大きくした。


「これなら喜んでもらえるかな」


オカダにどのタイミングで渡そうか。


それぞれの好きを込めたトリュフチョコは 

自分たちで選んだ箱に綺麗に並べられ、

リボンを掛けられた。





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