水野菜々緒は歩いている。並んで歩いている。
「菜々緒、どうした?」
彼がいつもの調子で聞いてくる。
彼・佐賀玲王(さが れお)と知り合って、もう何年になるだろう。


菜々緒は小学校の時、不登校だったことがある。
母が連れて行ってくれたスクールカウンセラーの柏倉メンタルクリニック。
今思うと、先生は心療内科医、つまり精神科医でもあった。

そこで三学年上の玲王と初めて会った。
出会いは、さんざんで、まさかその後に彼と意気投合するなど、思ってもみなかった。

そして、お互い複雑な事情を抱えながらも、学校に戻ることができるようになるとは、その時には想像がつかなかった。

一度親の転勤で玲王と会えなくなったが、再会してからは玲王の家とも、
玲王の母親の家とも、家族ぐるみの付き合いになった。

玲王の家は、玲王の祖母・霧代の体調が悪く、あまり行けなかったが、お互いの家族でのホームパーティーの時、玲王の父親も参加してくれることもあった。
そう、まるで兄妹のような付き合い。
だけど‥・・・。


今日は聞いてみよう。もう聞いてもいいよね。だって、だって私は。
「玲王くん、私、私。その、高校生だよ」
「知ってるよ、菜々緒が高校に入った時、俺の大学入学祝いと、一緒に祝ったじゃないか」
違う。そういうことじゃない。

「あの、玲王くん、私、もう十六歳だよ。その、結婚できる歳だよ」
玲王はいぶかしげに菜々緒の顔をしげしげと見た。
「知ってるけど。結婚したくなったの?」
「違・・・そうじゃなくて、玲王くん、いくつになったの?」

「知ってるじゃないか。誕生祝だって毎年一緒にしてるだろう」
「玲王くんはいくつなの?」
「十八」
学年は三学年違うが、四月生まれの菜々緒。早生まれで三月生まれの玲王は、実際は2年1ヶ月しか、違わない。
「十八なら、その、私達って」
菜々緒は赤くなってうつむいてしまった。


「あのさ、さっきから何が言いたいの。確かに男は十八で結婚できるけど、俺、大学生だぜ。菜々緒なんか、高校生だろ。結婚とか」
「結婚したいわけじゃないの」
「俺とは結婚したくない?」
「違う、いやその、今、結婚したいんじゃないの」


菜々緒は脂汗が流れて来た。小学校の時に知り合って六年。
もうそろそろ、もうそろそろ、------------------良いのではないか。

それとも、玲王には菜々緒は妹のようなもので、それ以上ではないのか。
「誰か、別の男と結婚したいの?その相談?」
違う、違うよ玲王くん。私は、私は!!


玲王が突然菜々緒を引き寄せた。知り合って初めての出来事!!!
「れ・・・お・・・くん?」
「やめろよ、そんな奴。どうせ、菜々緒の外見の明るさしか見てないんだ。菜々緒の心の奥底まで、わかるわけがない」


お互い修羅場をくぐって来た。そう、知り合った頃の二人は戦友だったのだ。
菜々緒はためらいながら、たっぷりと汗ばんだ腕を、玲王の背中にまわした。

心臓の音が聞こえる。え?これって玲王くんの音?
そう頭によぎった時、菜々緒の意識が飛んだ。

 
夕暮れ時の薄闇の中、まだ青い二人の影が重なったのを見たのは、雲から射し込んだ細い月の光だけ。

                了
20211209

「虹を紡ぐ人びと」2015出版(完売)

約4年後の二人
(物語の始まりの、二人が不登校時、主人公の玲王が中1、菜々緒は小4
でした。物語の終わりはそこから約1年半後になります)

描いてみました(ウフ💛
(これを描いた時は、まだ女性が十六歳で結婚出来る時でした。
今って、男女とも十八歳でしたっけ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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かあさん、僕が帰らなくても何も無かったかのように生きていってね