普段の生活でもよくあることなのだが、
これまでにない痛みを覚えた時、一瞬でも「うわ、どないしよ」と怖くなる。
場所であったり、痛みの強さや度合いであったり。「これはすぐ治る」「寝たら治る」といった範疇を超えた痛みに、自分はめっぽう弱い。
頭の変な所が急に痛くなったりでもしようものなら「死ぬんか?これでお陀仏か?こんなあっさりとか?」と、一人で勝手な不安感に襲われてブルーな1日を過ごすことが特に30を過ぎてからの独身時代に多かったアホなこの自分が精進湖を手前にした陸橋の下りで今回苛まれた痛みは、両足の裏、右わきの下、腹部(なんとなく)の3つ。
両足の裏は舗装が十分でなく、凹凸や細かい傾斜の多い歩道に気を遣ったせいもある。原則、歩道を走行するこの大会では、意外と躓きや転倒が少なくない。
自分も去年のつくばマラソンで歩道脇の段差に足をとられ、すっ転んだのがまだ記憶に新しい。なるべくすり足に近い運びで上下動を抑えて走ろうと思っても、どうしても足元が気になってしまう。下りでも踏み込むというより傾斜に体をもって行かれるような動きになって、足裏に随分と負担をかけてしまった。
腹部は給水を摂っているうちに、腸のあたりがなんとなくモヤモヤし始めて・・・早朝のスタートゆえに、腸内環境を整えるのが難しい。精進湖のトイレで時間を使い、難を逃れる。
わきの下は・・・フォームが歪んでいたのだろう。これも結構痛い。
去年リタイヤした本栖湖入り口、69kmまでたどり着いたが、余力はほとんどない状態。
時間の余裕はあるものの、足の裏がとにかく痛い。気温も低く・・・肩も痛み出す。
一瞬、「もうやめようかな」と弱気になりかけたその時、
ある男性ランナーが「やめた!もうやめた!」と大声で言いながら、収容バスへと向かっていく。
それを見て思った。
そんな大声を出せるんなら、走れるやろ。
声も出んぐらいにボロボロになっても一歩を踏み出す。その精神力を試されているのがウルトラマラソンじゃないのか。
戦いを自分で投げてしまうようなことは、したくない。
心が折れていないのなら、いける。
本栖湖のエイドを出る。
復路のスタートは、野鳥の森公園から下りに下ってきた国道139号(パノラマライン)を、ひたすら登る。すれ違うランナーも多い狭い道を縫うように、コツコツ登っていく。
帰りたければ、ゴールしたければ、完走メダルが欲しければ、後悔したくなければ・・・登るしかない。
ここから、帰りの野鳥の森公園、西湖、河口湖・・・実は大した記憶がない。
とにかく集中、集中と言い聞かせ、目の前約5mほどをじっと見つめ、淡々と歩を進めるのみ。
遠くを見てしまうと「まだあんなにあるのか」と気持ちがネガティブになる。道路端の白線に沿って、何も考えず、脳内音楽も流さず、頭の中を無音にして走ってみた。
疲労はあっても、足取りは重くならない。自分でもこの区間はしっかり走れたと思う。河口湖を出た時点で、完走した一昨年と変わらない時間までリカバーできた。
グイグイと進んで、95km。残るは、あの坂だけだ。
(つづく)