クレイトン・クリステンセン氏の名著中の名著を遅ればせながら読了しました。1997年に出版されて以来、「イノベーション」について書かれているありとあらゆる書籍に引用されています。この人の博士号取ってからの受賞歴はもう凄まじいことになっています。


(写真お借りしました)


これは激アツでした。めちゃくちゃ面白かった。20世紀に書かれた本ですが20年以上が経った今でも全く色褪せない切れ味。学者さんなので、論理的に統計やグラフを多用していますが、非常に明確でわかりやすく、学者とは無縁の私のような素人でも全く苦労せずに読み進めることができます。


常々思っていることですが、難解な思想や考え方を万人がわかるように適切な言葉を使って説明ができる、これぞコミュニケーションスキルですね。誰にでも壁を作らず話に行けるとか、そう言うのも大事かも知れませんが、特に仕事の領域でのコミュニケーションスキルとは、いかに難しい話をしていても、相手に自分の言いたいことを正確に伝えることができるスキルのことだと思います。そういう意味で、クリステンセン氏の文章からはこのスキルがヒシヒシと伝わってきます。


本書は「優良企業がイノベーションに失敗するのはなぜか?ぽっと出の新興企業に市場から蹴落とされてしまうのはなぜか?」という疑問を、ディスク・ドライブ業界の歴史を参照しながら紐解いています。ディスク・ドライブ業界は製品の進化や企業の入れ替わりが短期間で行われるため、遺伝子の研究をする際にショウジョウバエを使うのと同じロジックで、研究対象に選ばれています。


まとめ、要約サイトはそれこそ五万とあるので詳細はそちらに譲るとして、結論としては「持続的イノベーション」(別のイノベーション関連書籍では、斬新型イノベーションと言われ、すでに市場に需要のある製品の性能を改良していく)に注力する優良な大企業は、構造的に「破壊的イノベーション」(全く新しい性能を持ち、新しい価値観をもって、新しい市場を開拓する)に対応できない、と言うのが大筋で、これを「破壊的イノベーション」が起きた業界の歴史を見ながら検証していく。


面白いなと思った考え方をいくつか紹介。


● 歴史的にみて性能の供給過剰が発生すると破壊的技術が出現し、確率された市場を下から侵食する可能性が出てくる。 

● 製品進化モデル 機能→信頼性→利便性→価格特徴と機能が市場の需要を超えると、差別化は意味を失う


確かに、例えば今身近にあるテクノロジーを考えた時、携帯の既存の機能(ネット接続速度、バッテリー容量、重さ、大きさ、記憶容量など)が今の10倍良くなる、って言われても、別に今全然困っていないので10倍のプレミアムは払わないと思う。でも携帯会社は既存性能の改良に力を入れてますよね。つまり性能の供給過剰が起きている。ガラケーをスマートフォンが完全に追い落としたように、スマホに変わる破壊的技術が生まれる土壌はすでにあると考えられますね( ・∇・)


● 人間は、理解ができない案はそこに内在するリスクに関係なく「リスクが大きい」と判断し、逆に理解できる案は内在するリスクに関係なく「リスクが小さい」と判断する傾向にある。


いやほんとそれ!投資について否定的な人が多いのはこういう特性があるからだと考えるとものすごく納得。興味を持って、理解しようとして勉強をする人が増えれば、リスクを過剰に懸念する人も減る。


● 明確で一貫性があり広く理解されている価値基準は、優良経営を示す指標である一方で、企業に何ができないかを定義するものでもある。この価値基準は企業が下位市場から上位市場に上がり、企業の規模が大きくなることで変化する。e.g. 10億円の新興市場は、年商4000万円の企業には魅力的に映るが、年商4000億円の企業にとってはうまみがないため、参入障壁が高くなる。


あと人的資本もね。やっぱり仕事できる人ってある程度上昇志向のある人が多いと思うんですよ。将来的に利益になるのか、そもそも商品として売れるかどうかもわからないし、失敗すれば、日本の文化的にそこからのカムバックは難しい、となれば、破壊的技術に進んで関わろうとするエリートがどれだけいるか。失敗も評価される文化にいる人たちの方がその分イノベーションを起こしやすいのは当然ですよね。


これはほんの一部で、他にも、うーむと唸らせてくれる一文に溢れていますので、超おすすめです。今月読む本はもう買ってしまったのだけど、クリステンセン氏は他にも書籍があるのでそちらは12月に買おうと思います。楠木先生に続き、大当たりを引いて大満足。





日本のイノベーションのジレンマも読んでみたい。


そんな感じ。