著者はフランスの歴史人口学者、家族人類学者で、今まで発刊された書籍の中でソ連崩壊、米国の金融危機、アラブの春を次々と「予言」したとされるかなりの有名人。私も名前だけは聞いたことありました。


(画像お借りしました)



私が普段目にするメディアは、欧米諸国あるいはウクライナを発信地とするものが多く、頭では偏りがあることはわかっているものの、なかなかConfirmation Biasを意識的に取り除くのは難しい。「ロシア=悪」「民主主義vs共産主義」「ウクライナの勝利こそ自由民主主義の勝利」と言ったいわば西側諸国のプロパガンダに踊らされていた部分は少なからずあったように思います。


この本は、そう言った偏った当事者(被害者)意識から一歩下がって、本当に目にしているニュースは正しいのか、という視点を与えてくれる書籍です。


私のスタンスとしては、誰がなんと言おうと最初に手を出したやつが悪い、であって、本書を読了後もここは変わりません。ただし、ロシアが手を出すのに至った経緯、さらには米国の歪みとここまで米国人がロシアを敵対視する歴史的な背景、また、米国をはじめとする欧米諸国が武器の提供によりウクライナ人を「人間の盾」にした戦争をしていることなど、西側諸国発進のニュースではほとんど取り上げられないことについて、学ぶことができたのは大きな収穫でした。


私は第二次オバマ政権の発足と同時に渡米して、トランプ政権への政権移行後すぐに帰国しているので、いろいろな部分で前向きで明るいアメリカの印象が強く残っているのですが、住んでいた場所柄、その裏で燻っていた白人の中流階級家庭の不満や資本主義の進行による不平等の拡大にはあまり触れてこなかったように思います。その結果、アメリカとロシアを善と悪、そして悪であるロシア(昨今は中国も)はいずれ滅びていくものであるというストーリーを知らず知らずのうちに頭の中で組み立てていたかもしれないな、と思っています。


実際のところ、アメリカとロシアの関係は善悪ではなく、むしろ補完関係にある、と著者は主張します。米国は「自由」と「非平等」に基づく社会を築き、ソ連は「権力」と「平等」な社会を築こうとした。WW2以降からソ連崩壊ごろまで、米国はソ連を「成長」へ向かわせ、ソ連は西側諸国を「平等(福祉国家)」へと向かわせる補完効果を持っていた、これは結構納得のいく理論だと思います。


同時に、アメリカの異常なまでなロシアへの執着は、アメリカ社会の歪みの裏返しである、とも言っており、ベトナム戦争をはじめとする60年代における様々なアメリカ社会の「失敗」を例に挙げ、ソ連が代表する共産主義との闘争の中で幸福だったアメリカが歪み、崩壊していったことの壮大な八つ当たりのようなものだ、と指摘します。これも正直納得がいきます。そもそもロシアは人口的にも経済規模的にも、アメリカどころかヨーロッパに劣ります。経済的、地政学的な観点から、今の中国を敵対視するのはわかりますが、ロシアのような弱体化した国家を目の敵にする合理的な理由はあまりないような気がします。


本書は2022年4月にまとめられているものなので、それから半年経った今のトッド氏の見解が気になるところです。


ところで同氏はフランス人ですが、アメリカ嫌いが滲み出ていてちょっと笑ってしまった。典型的な、というと語弊がありますが、アメリカのことが好きなヨーロッパ人ってあんまり会わない気がする。特に学歴が上がるほど、苦々しい顔する人が多い。


面白かったです。とてもおすすめ。この人の本また読みたい。俺の予言は当たるぜ的な雰囲気を文章から感じ取って鼻持ちならんじーさんだなコンニャロ( ・∇・)とは思いつつやっぱり興味ある。悔しいから古本で買う。


あ、あとこれも読み終わりました。


あのー内容が特殊すぎてマジで普段の私の生活には何も活かせないと思いますが、面白いは面白い。ジャンルとしては高野秀行と同じ、現地に飛び込んで行って体当たり的にいろいろ試す人の日記という感じ。なんとなく、本当は高野秀行とか椎名誠とかそういう系の本を書きたいんだろうけど、大学教授という立場上アカデミアに受け入れられるギリギリの線を行っている、という印象を受けました。私は振り切っちゃってる人の方が面白いので、高野秀行の本の方が好きです。


そんな感じ。