今日は留学していたユトレヒト音楽院の副科ピアノレッスンについて、思い出話を書きます。
入試にピアノの試験はなし
日本では専攻楽器に加えてピアノの試験があるところが多いみたいですね。
しかもベートーヴェンとかショパンとかレベルまで弾けるべきとか??
ユトレヒト音楽院では管楽器や歌科の入試項目にピアノ実技はありません。
私は7歳から13歳までピアノを習っていたので弾けなくはなかったのですが、それでも副科ピアノが入試項目になくてホッとしました…。
ピアノ習得度に合わせた課題
入試に副科ピアノの実技がないことから、中には副科ピアノのレッスンで初めてピアノを弾くという生徒も少なからずいました。
そういった初心者については、先生の手作りの教材や優しい曲集などを使い、運指や手の使い方からレッスンが始まります。
また、腕の立つ生徒にはベートーヴェンのソナタやバッハ、ショパン、シューマン、ラヴェル、そしてオランダの近現代作品などに取り組ませていました。
わたしの場合は、ピアノには20年以上のブランクがある状態ということで、始めはブルグミュラーからスタートしました。2回生ではずっと憧れだったベートーヴェンの「月光ソナタ」の第1楽章を課題に出してもらって最後まで弾き切ることができるようになりました。そして最後にはにモーツァルトの4台ピアノの協奏曲を2台ピアノ版に編曲したものを勉強しました。
副科ピアノはグループレッスンで、1チーム3~4人につき60分程度でした。他の人のレッスンを見ていても音楽の捉え方など勉強になりました。さらに先生がトピックスをグループ全体に投げかけて一緒に考えたりすることもありました。グループレッスンである利点を大いに楽しみました。
目的は上手に弾けるようになることじゃない
ここが最も特徴的でありました。
副科ピアノの目的は、ピアノを上手に弾けるようになることではないのです。
レッスンで語られることは、
- 練習のプロセスについて
- 緊張と心と演奏について
- 音楽を感じそれをどう表現するか
でした。
私は図らずもアジア出身の仲間たちと同じグループでのレッスンでした。皆素晴らしい演奏家です。ですが、それと同時に様々に困難やストレスを抱えていました。
EU外からの留学は要件も厳しく、お金に関することもシビアな条件があります。(それでも日本の私立音楽大学に行くよりは半額以下で済みますが。)また、アジ
アからオランダに留学するということは、遠く家族や恋人、母語や文化、食べ物とも離れて暮らすことです。35歳というそこそこ大人な状態で単身留学した私でさえ辛い時間が多くありました。ましてや20歳前半、中には10代で国を離れて勉強することは、かなりのストレスの連続だったと思います。
そんな私達に副科ピアノの先生はいつも寄り添ってくれました。
レッスンを通じて、優しい人間であることだけでなく、自分自身にも優しくすることも教えてくれました。
そして、上手に弾くことよりも、練習のプロセスの観察の仕方や練習の工夫、音楽とどう向き合うかを愛情たっぷりに教えてくれました。これが専攻する楽器に大いに生きました。
わたしも含めたアジアからきた留学者は、副科ピアノレッスンをいつも楽しみにしていました。そこでは心から音楽を味わうことができ、グループ内でお互いに励ましあう時間にもなっていたからです。そして先生がいつも笑顔で優しく私達を包んでくれました。
先生の優しさに心がほぐれて泣くことも多かったです。
最終試験の課題は自分の楽器の伴奏
副科ピアノは初めの2年間の必須項目でした。2年目の6月に行われた学年末の試験の課題は、先生から指定されたピアノソロの曲と、もうひとつ
- 自分の主科のピアノ伴奏をする
です。
なんともユニークでハートフルな課題!!
レベルに合った曲を選び、クラリネットならクラリネット、ヴァイオリンならヴァイオリンの友人を連れてきて演奏してもらい、試験を受けます。
そうすることで、ピアノからの視点で旋律楽器とどうコミュニケーションを取ればいいか体験できます。それは自分のソロ曲に取り組むにあたっても大いに役立ちます。
また、音楽家であれば教える仕事に携わる確率は高いと思いますが、その際に自分の生徒にどう接すればいいかのヒントにもなります。
このように、ユトレヒト音楽院での副科ピアノはとても幸せな時間でした。
副科ピアノは学士課程のはじめの2年だけです。修士課程にはありません。希望で第2楽器としてとることはできますが、レッスン枠に空きがあるかないかによります。
わたしは日本の音大をかっとばしていきなり留学したことでこの副科ピアノを受けられたことも、学士からいきなり留学した価値であったと今も考えています。
副科ピアノのヘリー先生と。(2015年の夏前)