祖父の秘密は、
「終戦記念日」のところに書いたが、
母にも秘密があった。
私が子供の頃、
母の引き出しを開けると
バラバラに写真が散らばっていた。
ちゃんとまとめておくような人でもないので
それで普通だったんだけど。
人もたくさん写っているので私が尋ねると、
「友達の○○」とか、「姉ちゃんの子」とか、「いとこの☓☓」などと答えていた。
その中に潮干狩り中の赤ちゃんもあった。
母は△△と答えるので特に注意を払わなかった。(ちょっと顔に緊張感があらわれていたが)
時は過ぎ、中学生ぐらいになると、
「あんたに言っておかなきゃならない
事があるけど、大人になったらね」
神妙な表情で時々言っていた。
母は肺だけが弱かったので(病弱と信じていた)
生きている内に話さなきゃと
思っていたんだろう。
更に時は過ぎ、母のそばで
2番目の子に授乳していた。
和やかな雰囲気、父はその時不在だった。
母がゆっくり話し始める。
「実はね、一度離婚していたの。
お父さんとは、再婚なの。
子供は一人いたけど置いてきたの。」
私は驚いたけど、表情を変えないよう、
感情を抑えて静かに、沢山質問した。
母はどんどん答えていたので、
タガが外れたんだろうと思った。
ずっと黙って我慢していたのは
さぞつらかっただろう。
それが母の秘密だった。
というわけで、33歳のとき
半分だけど、自分に年の離れた兄が
いるって、知った。
その話の後、父が帰って来た時に、
何食わぬ顔をしてはいたが、
その場の雰囲気が違っていたかも知れない。
何だか裏切ったような「お父さん、ごめんね」
って気持ちになっていた。