十七


 バイトの休憩中におじいちゃんからのメールが送られてきた。内容を確認してみると、ホイップクリームを買ってきてくれという変なメールだった。「そんなのどうするの?」と返信すると1分後に、「料理で使うの。糖分入っていないクリームで」とまた送られてきた。冗談だと思っていたが、「料理に使うから買ってきて。糖分入ってないやつで」とまた真面目な文体で送られてきたのでこれは本当に必要なんだなと思い、仕方ないのでスーパーでホイップクリーム用のクリームを買ってきた。


「おう、実は玉子のヤツを驚かせて心臓麻痺を起こさせてやろうと思ってな」


 見るとおじいちゃんはメモ帳に書かれてあるレシピ通りに何かを作ろうとしていた。何を作るのかタイトルを見ると、「ホイップ入りフワフワオムライス」と書かれてあった。


「この前せっかく野草を摘んできてやったのにあいつ食べなかっただろ。悔しいからめちゃくちゃ美味しいオムライス作って驚かせてやろうと思うんだ。コレ、テレビでやってたんだ」


 思いやりの押し売りが野草3種類ではノラネコだってゴロニャンしないだろう。そもそも犬におしっこをかけられていそうな野草におばあちゃんがときめくはずもない。それにしてもその仕返しがオムライスとは突拍子もないじいさんである。


「お前も手伝ってくれ。買ってきたクリームを泡立てるんだ。ホイップ! ホイップ!」


 電動の泡立て器がないと言うと、「手があるじゃないか、手が」と手を強調しながら電動じゃない泡立て器を俺によこした。そもそもおじいちゃんの発案なのだからおじいちゃんが責任を持って泡立てるべきなのに何故俺がクリームをホイップさせなければならないのだろうか。おじいちゃんは思いつきでいろいろなことを考えるが、そのとばっちりを受けるのはいつも孫の俺である。


「じゃあお前の作ってくれたこのホイップクリームを使うぞ」


 何をするのかと思ったら、何と溶いた卵の中にホイップクリームをこれでもかとぶちこんでしまった。分量は合ってるのかと聞くと、「んなもんテキトーにやってても何とかなるんだよ」と男の料理にふさわしいクソ台詞を吐いた。





 完成したものを見てみると、汚く盛ったライスの上に、例のホイップクリーム入りのオムをまるで孫悟空の乗っている金斗雲のごとくモリモリに盛っていた。おまけにおじいちゃんの好きなしば漬けまで添えてあった。おじいちゃんはオムの部分をナイフで切り込みを入れると割れて中身がトロッと出てくるようなものをイメージしていたらしいのだが、おじいちゃんがフライパンに溶き卵を入れてからノロノロとしている間に卵に火が通ってしまってだんだんとスクランブルエッグ状態になってしまったのである。


「おかしいな。どこで間違えたんだ?」


 どこで間違えたのかと言われれば、不器用なくせに分不相応にフワフワオムライスなどを作ろうとしたその発想がすでに間違いである。普通のオムライスを作っていればこんな金斗雲になぞなりはしなかったのに、テレビに触発されて凝った挙句がこのザマである。


「あら、あなた何コレ。え、オムライス?」


 無論、おばあちゃんのリアクションは野草の時と何ら変わっていなかった。しかし味は美味しかったらしく、おじいちゃんの作ったオムライスを全部食べてしまった。おじいちゃんは、「味なんだよ、見た目じゃないんだ料理は」と自分の作った金斗雲を正当化しようと必死だった。