明けない夜はない。
言ったのは、誰だっただろうか。
誰かは知っていたのか。
朝が無ければ、夜が明けても何もないということに。
ツマリハ、間違イ。
story of wishes and collapse ~願いと崩壊の物語~
第四話 『直前』
カチャ、カチャ、カチャ、カチャ。
生命感なんてどこかへ喪失してしまったような音が、木々と闇の間に響く。
この音は隣にいる青年、ヘイズが装備している淡い青色の籠手から発せられている。
「んーメンテてーへんやなぁ……、フラルも気にならへんか?」
「……別に、興味はありません」
唐突に言葉を投げかけられるが、投げ返す気がなかったので地面に叩き落とす。
「冷たいなぁ。もーちょい子供らしくしてもええんやない?」
地面に叩き落としたはずなのに、また言葉が帰ってきた。
しつこい。
今まで感じたことがないくらいに思い、心中に渦巻く。
「別に、そんな気はありません。……作戦決行(スタート)までの時間は?」
とっとと無意味な会話を終わらせるために、意味のある質問を押し付ける。
いや、本当にコレは大事なのだが。
「そーやなー、あと23分53秒ってところやな。そろそろ近づくかい?」
「了解しました」
作戦決行(スタート)まで25分を切っていた。
現在位置は、シルフルーの攻撃要塞『ニトロ』の東に広がった森の中。
要塞破壊―――城落とし―――の内容は、以下の通り。
ライカルとジルトが時間になり次第、遠距離系重火兵器(カベクズシ)で一斉砲撃。
要塞の兵士の気を引いている間に、わたしとヘイズが要塞の東にある隠し入り口から中へ侵入。
外と中から要塞を潰す。
それが今回の作戦。
要塞内の地図や情報は、あらかじめここに来るまでに大方頭に叩き込んだ。
問題は、ないはず。
「フラル?フラルー?あと10分切ったで」
「っ、はい。すみません」
脳内に叩きこんだ情報を、再確認していて周囲が見えなかった。
ヘイズが籠手を確認したのち、軽く顎をしゃくる。
しゃくった方向は、ライカルとジルトがカベクズシを用意しているであろう場所
を、意識したのではない。
「、はッ!」
鋭く息を吐き、適当(もちろんすべて計算した上)に魔力を瞬時に固め放つ。
「がはっ!?」
ヘイズが顎をしゃくった方から、鈍い打撃音と呻き声が虚しくひびく。
なぎ倒される木々、そして、
「……読まれたようですね」
「そうらしいなぁ」
増える気配。
戦闘に支障がでないような意匠の、紅蓮の軍服。加えて、同一の黒いスカーフ。
13、17、いや20。
風景という壁紙の上からぽろぽろと透明な壁がはがれ、そこに奴らがいる。
「シルフルーの隠密部隊。名を」
「『インビジブル』、やったか?」
わたしが言いかけた部分を、勝手にヘイズが継ぐ。
「……たった一度の攻防でそこまで、見抜くか」
隠密部隊(インビジブル)の内の1人が口を開く。
シルフルーの隠密部隊(インビジブル)は、かなり知名度がある。
文字通り、高度擬態魔法で姿を隠し対象を仕留める、透明な暗殺者(インビジブル)。
軍や戦いに関わるものの中だけ、の話だが。
「そちらの気配が強すぎるんや。51分前から目を付けていたんやろ?」
「ふん、さすが『魔を呼び込む月(ルナヴィアース)』の兵士だ」
「そりゃどーも」
ヘイズが軽く返す。だがその気配は違う。
「……で、家へは返してくれるんか?」
「それ以前にここは俺らの領地だ」
「そーかい。『領地侵害』の法にでもかける気かい?」
ヘイズが言葉を投げた途端、帰ってきたのは言葉ではなく銀に煌めく刃(ナイフ)。
気配を変えた彼は軽くかわし、片手を握って突き出し、
「知ってるか?」
告げる。
「手を出した瞬間に、勝ちか負けかは決まるんや」
言葉と一緒に舞ったのは、今しがた話していた名も知れない隠密部隊(インビジブル)の1人の、首。
「た、隊長!?」
どうやら、彼らの隊長だったらしく狼狽している。
「おー、そいつ隊長やったんやなぁ。悪ぃ悪ぃ」
ヘイズは軽く笑った。足元に転がってきた首を隠密部隊(インビジブル)に蹴り飛ばして。
付けていた籠手の、指の間の接続部から伸びた、血に滴った糸を地に垂らして。
その糸の形をした兵器は『魔斬糸(ワイヤー)』。
速度と共に対象に触れれば、軽く切れる。いや、よく切れる。
岩であろうとも、人体であろうとも。
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
頭(かしら)を失い血迷った隠密部隊(インビジブル)が数名、刀やらナイフやらの得物を手に襲いかかってくる。
ただし、ヘイズではなくわたしに。
「フラル頼むでー」
「……軽々しくいうな!!」
わたしに近づいたのが運のつきだと思え。
背負った剣を手にすると見せかけて、
「『吹き飛べ(ヴェルアード)』」
魔法で吹き飛ばす。
どちらかと言えば『焼き殺す』。
『光の眠りを(ヴェルアード)』は光属性の魔法。
その光に当たったものは、純粋な光にその身を焼かれる。
魔力が純粋であるほど、強く、強く。
わたしが込めた魔力の純度は『適当(はんごろし)』。
襲いかかった隠密部隊(インビジブル)は、体の大部分が炭と化し、一部は生身のまま地に転がって動かなくなる。
……『適当(はんごろし)』よりは強かったみたいだ。威力が。
「うわぁ、エグイなぁ」
わたしの魔法を見たヘイズは言いながら、先程から突き出したままの籠手を振る。
すぱっ、という効果音がつけられそうなほどきれいに、他の隠密部隊(インビジブル)の首や胴が転げ落ちた。
無論、残っていた人々全員。さっきの血塗れた糸で。
ヘイズが隠密部隊(インビジブル)の隊長と思われる人物の首を落としてからここまで約1分ほど。
会話を入れれば、約7分。
「……噂の割には、あっけないですね」
「せやなぁ」
血まみれになった魔斬糸(ワイヤー)を籠手に収納しながらヘイズが呟きを拾って返す。
籠手をいじっていたのは、コレの調整だったのか。
「に、してもフラルすげぇなぁ。『光の眠りを(ヴェルアード)』って高位魔法やろ?」
「そうですね、そういう分類です」
「ええなぁ魔法。一度使ってみたいわ」
目の前の惨状を無視して、会話を始めた直後に連続した爆音が響く。
それは、作戦決行(スタート)の合図。
「「任務開始」」