それはまだ、秋人が2年生になって数日後。

新入生披露の日の事だった。

「ね、秋人ー?あの子男の子なのかな?
女の子に見えるんだけどっ
すごい可愛いよねーっ」

新入生達が並ぶ中一際目立つ
童顔フェイスの学ランを着た男の子。

周りにいる上級生も
彼を見てざわめいていた。

「イジメるなよ?」

「もう、秋人って本当優しいんだから」

本当は誰にも取られたくなかっただけ
かも知れない。

その日から数日間。

彼を見に2、3年生は
彼のいる1年教室廊下を覗く事が
毎日の楽しみだったが…

「まーた、覗いて…飽きないな、お前ら」

そう言って秋人は止める。

「本当は秋人もみたいんでしょ?」

「なわけあるか!ほら、行くぞ」

本心をつかれたようで動揺した。

自分らの教室へ戻ろうと階段を
のぼろうとしたとたん、声が聞こえた。

「あ、秋人先輩っ」

そう呼ぶのは…あの彼夏季だった。

吃驚して、振り返る秋人は覗いていた
輩を隠すように慌てる。

「な、なんで俺の事知ってんの?
入学したばかりのお前が…」

「俺…入学前に先輩の部活動見て
かっよくて…憧れて…」

そこにいるのは
完全に先輩に憧れるだけの後輩だった。

「だから…同じ部活に入部させて下さい」

そう頭を下げる彼は
2、3年生の君の思いをちっとも知らない
純粋な後輩だった。

「気持ちは嬉しいけど…
部活動勧誘解放時期まで待とうな?
俺、待ってるから。」

秋人は夏季の頭をくしゃりと撫でた。

彼が頭をあげた時、すごい嬉しそうだった。

俺への憧れだからかも知れない。

けれど、それは周りにとって羨ましい行為。

夏季は自分の名前を言うと
教室に帰って行った。

教室に入るのを見届けると
秋人の周りにいた輩が騒ぎ出した。

「こらぁ、秋人っ!!
なに、なっつんのー」

「いきなり、あだ名つけるなよ。
…夏季か。」

あんなまじかで見たのは初めてだった。

俺にだけ嬉しい顔をする。

それが優越感にひたされて
夏季は自分のものだけって思えていた。

あんな場面さえ見なければ
それが恋なんて思わなかった。

あんな事も起きなかった。

こんな苦しい思いもせずにすんだ。

「俺、知らなかったな。
先輩が勉強も出来るなんてっ」

俺の話しになると目をキラキラ光らせ
体を乗り上げ、もっと聞きたそうに
顔を近づけてくる彼にドキドキする。

「近いぞ、夏季。
俺に憧れてるのは分かるが…」

他の人の目線が痛いくらい伝わる。

ドキドキを隠すように突き出す。

部室で夏季が話す話題は決まって同じ。

「先輩…俺、その。」

先輩たちがそういう目で自分を見ていた
なんて、なんてショックに違いない。

「先輩は…違います、よね?」

確認するように夏季は言う。

俺は無言のまま黙ってしまった。

「…先輩。そういや、俺に用事って
今の話しじゃないですよね?」

あどけない笑顔でそう答える。

「…夏季にチョコあげようと思ってさ
けど…いらない、よな?そう、思うなら」

「ーっ!!いるっ!!
先輩からのだったら受け取るっ」

その言葉だけで秋人の心は
どんどん堕ちていってしまった。

まるで、自分だけ、そういう目で見ても
構わないって言ってるみたいだった。

その思いが抑えきれなくなった時
歯止めが効かなくなっていた。

「…夏季」

「……っ。あ…は…せん、先輩」

「名前で呼んで、夏季。
お兄ちゃんでもいい…から。」

先輩なんて呼ばないで。

憧れだけじゃ嫌なんだ。

つづく