俺はまた、勘違いをした。

「だから、もう謝るなって」

左手を見ると俺を見あげるように
先輩がじっと見つめながら
布団に入り、そう言ってくれる。

先輩の一言一言が心を優しく包み込む。

だけど、先輩が俺を見上げて見てる
だけで何かモヤモヤして
先輩が見えないように右側へ転がり
壁際に体を寄せる。

「夏季、俺が卒業するまでの間
一緒に登校も下校も出来るな…」

……

先輩には秘密。

先輩と同じ高校に行こうとしてる事。

「そうだね。」

「部員達に夏季にだけ優しくしないでとか
言われちゃいそうだな。」

「言いませんって。
先輩は…誰にも優しいから。」

だから、きっと彼女だっている。

先輩は好きな人の話題とか嫌いで
何も言わないけれど…

「そっかぁ…俺…誰にも優しいのかぁ」

先輩はそう言ったきり
俺がいくら言っても返答しなかった。

もう…寝ちゃったのかな?

体を先輩がいる左手へ周り覗いて見ると
先輩は俺がいるベットと逆を向いていた。

その背中は何か考えているように見えた。

それから、同じ部活の人に両親の再婚で
先輩と一緒に暮らしている事を言った。

だから、登校も下校も一緒にいると言った。

そして先輩に寄る女生徒が先輩に
あれこれ質問していた。

俺はそれをじっと見ていた。

が、ふと疑問に思った。

「先輩の事、ききたいのなら
普通、俺にきくんじゃないの?」

とボソリと言ったとたん
先輩に寄っていた女生徒が一斉に俺のとこに
駆け寄って来た。

「夏季君、秋人先輩から聞いたんだけど
彼女いるんだって?知らなかったーっ」

え?

「それに、甘いものより辛いものが好きって。
今度家庭科実習したらもってくるね!」

何言って…

彼女らは逆の事を言ってくる。

女生徒らが部室から帰った後どっと疲れた
くらい

「なぁ、夏季…お前…
甘いものが好きじゃなかったっけ?
好み変わったのか!?
それに彼女がいるって初耳だぞっ」

同じ部活の男が俺にそう言いよってくる。

「何言ってんだよ…
あいつらが言ってる事全部逆だよ…」

「だよなー」

……

「ごめん、俺…疲れた。
今日はもう帰るわ…」

俺がそう言うと先輩も帰り支度を始め
俺の後をついてくるのであった。

学校から自宅へ丁度半分くらい進んだとこで
俺は振り返り、目だけ先輩に睨みつけるように

「先輩…なんで彼女らに
あー言ったんですか?」

「夏季に悪い虫がつかないようー」

「つくわけないよっ
モテモテの先輩じゃあるまいしっ!!」

「夏季…」

先輩は悲しそうな声で俺を呼んだ。

「夏季は…」

俺に言いたそうな声でもあった。

「やっぱ…なんでも、ない。」

そう言って、俺に言わなかった。

自宅に帰った後、すぐに着替え
先輩はどこかに出かけてしまった。

先輩が部屋にいない内に
先輩が受験すると言ってた高校の勉強をする。

先輩と暮らして数日。

少し、憧れの先輩に近づけたと思ったら
先輩が俺に対して可笑しい行動や発言をする。

だから、未だに先輩が分からない。

「夏季君、これあげるー
クッキー焼いたんだぁ」

「うぁあ…すっごい真っ赤だね。」

「うん、辛いの好きって聞いたから」

…………

「あのさ…この間秋人先輩が言ったのは」

「あ、秋人先輩っ先輩も、ついでに食べます?
今、夏季君にあげたんですよ」

「へー…弟にあげたんだ?」

“弟”

分かってるけど、
他人みたいな呼び方に聞こえてくる。

先輩は俺が受け取ったクッキーをひょいと
取り上げ、食べてしまった。

「うわ、からっ」

「あー、ひどい。先輩たらっ
夏季君にあげたのに。」

「夏季は、彼女からのしか
受け取らない主義なんだよ」

また、だ。

また嘘をつく。

「そうなの?夏季君?」

先輩が嘘をつくたび体が壊れると思うくらい
熱がどんどんあがっていく。

息も切れるくらい疲れる。

「俺、彼女なんていないしっ。
辛いものより甘い方が好きなんだけど。」

「そうなの!?
先輩ー、なんで嘘つくんですか?
夏季君と暮らしてから変わったんじゃないですか?
なんか、優しくないー」

優しくない?

「夏季君にだけ優しい感じするー」

え…

俺にだけ優しい?

つづく