朝の通勤途中のこと。

電車を降りて職場へ向かう行列の波に

私も上手く乗らなければ

と、前の人の歩みに合わせて

やや緊張気味に

いつもの踏み切りを渡った時、

前にいた中年の男性が

急に少し歩を早めました。

「急いでいるのかな?」

と私が思った瞬間、

背広姿の男性は

彼の二人前の

これまた中年の背広を着た男性の肩を

「トントン」と叩いて

「○○さん、おはようございます」

と声を掛けました。

声を掛けられた男性は

白い杖を持っていました。

白い杖の男性は歩きながら

声を掛けた男性の左肩に手を乗せて

一歩後ろを同じ速度で歩きだしました。

行列の流れを止める事もなくスマートに

障害を持つ人に手を差し伸べて

自分が杖になる。

きっと二人は同じ職場で、顔見知りで

いつもしている事なんだろうな

と思いましたが

それをあんなに自然にできることに

感動させられました。

面倒臭いと思う訳でもなく

高飛車に上から目線でもなく

仲間や友人として当然という行動でした。

ちらっと見えた白い杖の男性の横顔は

嬉しそうに笑っていました。




零れそうな涙を堪えようと

見上げた空は

どこまでも、どこまでも青空でした。