この論文では、ラグビーのチームワークや組織作りを「動機づけ雰囲気(motivational climate)」という観点から捉えています。聞きなれない言葉なので、少し説明をしましょう。



動機づけ雰囲気とは、簡単に言うと、チームが持っている雰囲気のことです。仲の良い雰囲気、ピリピリと緊張感のある雰囲気と、チームによって雰囲気に特徴がありますよね。この動機づけ雰囲気は、チーム目標の基準によって2つに大別することができます。選手の上達やチームの成長を目指すチームなのか、それとも、勝敗を重視するチームなのか。どちらを重視するのかによって、チームの雰囲気は大きく変わってきます。



まず、チームや個人の成長を目指すチームは、「上達雰囲気」のチームになります。上達雰囲気のチームは、上達や進歩、努力をすることに価値を置いています。また、一人ひとりの役割や協力することにも重きを置いています。



一方、勝敗を重視するチームは、「勝利雰囲気(遂行志向・自我志向)」のチームになります。このチームの場合、評価の基準は勝つこと、他者よりも優れることになります。そのため、失敗は非難され、不正を働いても勝つことが優先されるので、不平等が生じやすいとされています。



一般的に、上達雰囲気を持つチームは、練習を楽しく、一生懸命に取り組みます。上達するために新しいことにも積極的にチャレンジし、チームへの満足感も高くなります。反対に、勝利雰囲気を持つチームは、常に結果のことを意識するので緊張や不安が高く、失敗をすると罰せられるのでチャレンジすることを避けるようになります。当然、チームへの満足感は低くなってしまいます。



これだけを見ると、上達雰囲気がよいのですが、現実はそんなに簡単なものではありません。状況に応じて両者を適切に使い分けることが大事になってきます。いろいろなことにチャレンジするおおらかさ。失敗が許されない緊張感。どちらの要素も、チームや個人が成長するためには必要なものでしょう。



この動機づけ雰囲気の方向性を決めるのに最も影響力があるのは、指導者の考え方になります。指導者の指導方針・ポリシーなどによって、チームの雰囲気は大きく変わってくるのです。よい指導者はこの雰囲気作りが上手なのでしょう。





さて、前置きが長くなりましたが、チーム改革に取り組む前のNZ・オールブラックスは、チームの規律が乏しく、問題行動も頻発し、チームとしては未成熟な状態だったようです。そこで、チームの雰囲気を変えるために様々な取り組みを行いました。チーム改革に影響したもの、取り組んだものとして、以下の8つのキーワードが挙げられています。

1.ターニングポイント

2.コーチングスタイルの変化

3.二重管理(リーダーを育てる)

4.良い人がより良いオールブラックスを形成する」という方針

5.責任

6.リーダーシップ

7.プライド

8.チームのまとまり



次回以降、各々の取組みについて詳しく説明します。





※上達雰囲気: 心理学では、熟達志向、課題志向雰囲気などと表現します。

※勝利雰囲気: 心理学でては、成績志向、遂行志向、自我志向雰囲気などと表現します。