わたしが親元を離れ、一人暮らしを初めてまもなくのことです。
ペットショップで病気で、死にそうになっているトイプードルを見つけました。
湿疹もできて、毛も半分くらい抜けていて・・それでも値段は・・9万円。
もちろん・・誰も買いません。
で・・毎日そこに通っては、そのこのことを見ていました。

ポメラニアンやマルチーズ・・
それに健康な方のトイプードルなどは、どんどん売れていくのに、そのこだけは・・売れません。

まだ生まれたてで・・手に乗るくらいでした。
わたしは、ほかの犬や猫のところには行かずに
ただ・・そのこ(トイプードルの赤ちゃん)のところにだけ行っていました。

目がすごく可愛くて、ずっと見つめてくるのです。
何度もお店の人に 『このこ、ください』 と言いかけました。
でも・・自分のことだけで手一杯なのに
小さな動物を飼って世話ができるかどうかの自信がありませんでした。

それでも・・すごく気になって毎日通うわたしでした。

相変わらず皮膚病が治らないため痒いみたいで引っかいたりしています。
で・・・ひっかいたところから血が出ています。
それが、かさぶたになって・・またそれをひっかく。
ちゃんとお医者さんに、連れていってるんだろうかと思いました。
でも・・小心者のわたしなので、お店の人に聞くこともできません(涙)

一週間ほどが過ぎました。
毎日通いながら、売れてるといいな・・。
でも・・売れてたら・・・さみしいな・・・。
そんな思いで、ペットショップに通っていました。

ちょうど10日目あたりのことです。

「ねえ・・みてみて!」

小学4~5年生の女の子たちが、その子の前にいます。

「うわっ・・汚い・・毛が抜けてるじゃん」
「うん・・これ病気だね・・皮膚病にかかってるみたい」
「なんで・・他の子たちと一緒にしとくの?
 病気が、うつっちゃうじゃん。」
「だね・・・それにしても・・汚いね・・。」

その子に何の罪もないのに、ちょっとだけ皮膚病だということで
そこまで忌み嫌われるのって、ひどいと思いました。
トイちゃんは(わたしが勝手につけてた名前)私に気づきました。
そして切なそうな目で私のほうを見るのです。

さすがに皮膚病の子を目立つところにおいていたわけではありません。
ゲージが一番長い方の壁にそって3段になってならんでいました。
トイちゃん(トイプードルなので・・安易に)は、一番右下の
一応は・・目立たないところに入れてあったんです。
それでも・・順に見ていくわけですから、自然と目に入ります。

奥にしまっておいて、きちんと治してあげてから、
展示(?)すればいいのになって、わたしは思っていました。

「・・それにしても・・汚いね・・。」

心ない小学生の女の子の言葉に・・カチンとしてしまったのもあるし
私に気づいたトイちゃんが、切なそうな目で私のほうを見るのもあって
  気がついたら
お店の人に、『このこ・・ください』 と言っていました。

犬って金魚や植物とは違いますよね。
世話が大変なのではと尻込みしていた私ですが
(この子を守れるのは私しかいない!) って、思い込んでしまったんですよね。

まだ女の子たちもそこにいました。
さすがに声には出しませんでしたが
(ええーっ! このひと、何でこんなに汚い犬をかっちゃうの?)
眉をひそめて、見られているように感じました。
でも・・そういうことも一切、気にならなくなってました。

   ――だって決めてしまったんだもん(笑)

実は・・そのときは、お店の人の方がびっくりしたみたいです。
「待ってください・・責任者の人を読んできます!」
と言って、お店の奥に入っていかれました。
そして、直接に責任者の人とお話をしました。
その責任者の方も、その子のことは心配してたそうです。
どうしても売れなければ、自分で飼うつもりだったと言われました。

そして・・・

お金を払おうとすると、なんと半額でいいと言われました。
注意事項も教えて下さって、必要なものも全部用意してくださいました。
それで・・すべて込みで、半額のままなんです。
いかに・・売れそうになかった子かってことがわかるでしょう?
そして、その売れそうになかった子が私の部屋にきたんです。

皮膚病を治してあげたくて獣医さんに診てもらいに行きました。
お薬ももらって毎日塗ってあげました。
歯がまだ生えきっていないので牛乳を飲ませてあげました。
これも効くかもねって、人間用のオロナイン軟膏をつけたりもしました。

私がかえってくるたびに、じゅうたんが血で汚れています。
拭いても、なかなかきれいになりません。
治りかけても、引っかいてしまうので
一緒にいるときは、膝の上に抱いたまま手足を押さえて、テレビをみてたりしてました。

ばたばたしないで、行儀よくしてたのが、えらかったです。
  (いい迷惑だったかも・・)
早く治るといいね。
そしたら、じゅうたん、きれいなのにするからねって!
その子に話しかけたりしてました。

あっ!  名前・・決めなくちゃ!

迷った末に、風の子みたいに元気になってほしいとの願いを込めて
『風子』と名づけました。
よほど痒いのでしょう。
わたしが昼間でかけているときに
身体を掻きまくるせいで、なかなかよくなりせん。

ふたりでいれば、
わたしが彼女の両手をもって膝に乗せてますから大丈夫なのですが
いつでも・・一緒にいられるわけでもないんです。

それで・・わたしのとった作戦は、ミイラ作戦でした。

軟膏をつけたあとで、ガーゼを当てて身体中を包帯でぐるぐるにまくんです。
掻きたくても・・包帯が邪魔でうまく掻けません。
風子タンは包帯が嫌いで、身体を何度もひねります。

(えへ・・そんなに、ひねってもだめよん
 しっかり、巻きつけたからね
 でも・・そんなに、痒いんじゃ、かわいそうだし ちょっとだけ、撫でてあげるね!)

   みたいに、することにしました。

風子と名前をつけましたが
いつでも、風子と呼んでいたわけではありません。
ふだんは、「ふうこ・・ふうたん・・ふうたろう!」などと適当に気分に合わせて呼んでたんですよ。

わたしの手足握りしめテレビ作戦とぐるぐる巻きミイラ作戦が功を奏したのか
・・たぶん両方だと思いますが、ついに、皮膚病が治ってきました。
お医者さんも、特別ひどい疾患というわけではなく
何かに刺された場所を、
引っ掻きすぎてひどくしたんだろうということでした(よかったよかった)

毛が抜けていた部分にも毛が生えてきました。
歯もきちんと生えました・・めちゃ可愛い歯が(笑)
鳥の砂肝とかを、お醤油で味付けして食べさせると喜んでたべるようになりました。

しつけですが・・わたしがやったしつけは、たったひとつ!
たったひとつのしつけとは??

トイレを、おトイレシートの上でさせることだけです。

お手や伏せなどの芸は、一個も教えませんでした。
わたしの中に、人間に媚を売る必要はない。
自由に好きなように生きさせてあげたいって思う気持ちがあったからです。

ただ・・トイレだけは、どこにでもされると困るので
そこだけは厳しくしつけました(自分勝手?じゃないですよね!)

それと・・ちょっとだけ自慢を・・。

風子って喫茶店などに行って待ってるとき
横に座らせておくのですが、絶対に勝手に歩き回ったりしません。
人がすぐ近くにきて
「かわいいね!」とかって話しかけられても絶対に吠えませんでした。

ただ、その人の手を、ぺろぺろって舐めるだけなんです。
たまに・・「お手」とかって言ってくる人もいたのですが
「この子、ばかなんで、そういうの覚えられないんです」と、言い訳をしてました。

(おばかに、させちゃってごめんね
 でも、ほんとは、めちゃ賢かったってこと・・わたしが知ってるから!)

ちなみに、あまりに動かないので、ぬいぐるみと間違われたことさえあります。
それほど、おとなしい風子だったのですが、部屋の中にいるときは、まったくの別人です。
玄関の外に誰かが近づいてくるだけで「キャンキャン」と、大きな声で鳴くのです。
おかげで・・泥棒さんにだけは、入られずにすんだかも(笑)

風子ってね。
食事中に、わたしがちょっかいを出すと本気になって、うなります。
冗談で食べてるものを取ろうものなら、平気で、わたしの手に噛み付きます。
(甘噛みではなく・・本気噛み)

家の中では、一番が風子・・二番がわたしでした。
お客さん? もちろん・・三番です(おいおい)

内弁慶だけど、外では借りてきた猫。
ぜんぜん迷惑をかけないので、いきつけの喫茶店では人気者。
サービスで、お皿に載せたミルクとかも、もらえたりしたんですよ。
風子は、なくてはならない家族でした。
8年くらいで、病気で死んでしまいました。悲しくて涙がとまらなかったです。

いまだに・・

風子以上に可愛いトイプードルにはあったことがありません。
(そこまでいうか・・とお叱りを受けそう・・)

書きながら、親ばかぶりを発揮しまくった私。
ちょっと自分をよく書きすぎたのではと・・照れもありますが
これが、わたしと風子タンのお話です。
想い出もたくさんありすぎて、書き始めるととまりません。
ということで・・このへんで……。

★あとがき★

 

風子は大事な家族だったので家族のお話に入れました。
あとね・・・・
わたしのことを、優しいって勘違いする人も多そうなんで否定!
優しくも何ともないです!
いつでもわがままで、自分勝手なわたしですから。

トイレのしつけにしても、部屋が汚れるから!
と・・それだけの理由です(要するに飼い主が気持ちよくいられるように)

はじめの頃、場所がわからないで、じゅうたんの上にすると
そこに嫌がる風子の鼻先をつけて
『だめでしょ・・ここは、だめ! する場所は・・ここだよっ !!!』
と、うんちも、おトイレシートに運んで、教えようとしたわたしです。
で・・お鼻にくっついたうんちを、もう~~って言いながらふいたのもわたしですが。

おりこう・・では、きっとなかったです。
お手・・実は・・一回くらいは、教えようとしたかも(たぶん)
でも、まあ、できなくてもいいよねって・・笑ったのもわたしです。

風子がいて、わたしも、めちゃ慰められました。
家に帰るのが楽しくて、誘いもことごとく断ったりなんかも。
幸せって自分ひとりでつくれるものじゃないと思います。
だれかといるから・・ひとりじゃないから・・だから幸せって感じられるのだと!

風子のおかげで毎日楽しくて、いろんな人とも仲良くなれました。
いきつけの喫茶店・・そこって雑誌もいっぱいおいてあって
いくらでも、ひまをつぶせるんです。
コーヒー一杯で、何時間いても誰も文句は言わないところでした。
時間経過で、あせあせするネットカフェではなく
純粋にコーヒー一杯で、すべての漫画を読み終えるまでいてもよい場所でした。

お話・・もっと続けてもよいのですが
書けばかくほど、親ばかになってしまうし
「おいおい・・・自慢かよ」って、笑われそうで、これくらいにしておかないと…。

  というわけで、これにて       おしまい