就労ビザ申請に必要な在職証明書を発行してもらうため、以前働いていた会社を訪ねる。


郵送でも良いと言われたが、久しぶりにみんなの顔を見たくて、近いので行くことにした。


留学すると言って辞めて以来、5年振り。


内務の女性たちはほとんどが変わらず、懐かしい顔ぶれだった。


でも、私に仕事を教えてくれた人が見当たらない。


聞くと、数年前に亡くなったという。



当時一緒に仕事をしていた頃に、乳癌が見つかり、摘出手術をした。


退院後、一週間程度で職場に復帰、いつもと変わらず気丈だった。


私が辞めてから、乳房再建手術をし、その後も元気に働いていたそうだ。



突然の訃報にふいに涙が出る。


一番会いたかった人だった。


とても厳しい先輩だった。当たりが強すぎて、新しく入った人は次々と辞めていったというくらい。


私がいた頃にも2人は辞めてしまった。


仕事もできるし、美人で、スタイルが良くて、プライドが高い、バブル世代。


39歳、バツイチで5歳の女の子のお母さんだった。


私もしばらくは辛かったけれど、辞めようとは思わなかった。


負けず嫌いだから、矛盾とか理不尽なこととか、言いたいことはたくさんあったけど、


決して逆らったりはしなかった。


自分には目標があったから、ただ耐えた。


そして、その人が本当は心が温かい、素直な人だとわかっていたから。


毎月ギリギリ(マイナスだったかも)のお給料で娘と二人暮らし。でも自分の親に頼ろうとはしない。


そんな女の意地みたいなところを高く買っていたのかもしれない。


憎むことはできなかった。


ひたむきに真面目にしていると、私のことをわかってくれて、しだいに打ち解けてきた。


世間話も笑い話もできるようになった。


自分の夢を応援してくれた。


辞める日の最後にみんな一人ひとりに手紙を書いた。


その手紙で涙を流してくれた。やっぱり温かい人だった。



その後、癌が頭や骨にまで転移しても、最後までずっと同じ職場で働いていたという。


またあの顔を見たかった。話したかった。


成長した自分を見てほしかった。


私、今でも夢を追っています。歩みは遅いけど、着実に近づいていっていますよ。


空の上から見ていてください。見守っていてください。


天国で安らかに心穏やかにいられますように。