さばをのなまぬるい毎日-supumante

夜更けに鳴り響く電話のベルには不吉な感じが付きまとう。



サバ家では10時以降は真夜中、



それ以降の電話は留守電扱いになる。



あやしいセールスコールや、ちょっとした用事ならそれで事足りる、



しかしその夜の電話は明らかに異常だった。



いつものように寝室のサバ親はシカトを決め込み、



さばをも自室には電話が無いのでほっといた。



それでもベルは数分おきになり続けたのだ。



さすがに緊急性を感じたさばを、意を決して出てみると・・・



”サバ サバ彦さんのお宅ですか?”



おっさんの声、



あ~あ、こんな時間までセールスコールかよ( ̄_ ̄ i)



一瞬思ったが・・・



”実は、弟さんが倒れて入院されたんです。身内に連絡を取るよう頼まれて電話したんです。”



父には2人弟がいる、どの弟かたずねても



 ”え~、う~んと・・・” と言うばかり。



なんでもおっさんは父の弟の職場仲間らしい、



おっさんでは要領を得ないので、病院から折り返してもらうことに・・・。



しばらくして、病院のドクターと話をすることができた。



”弟さんは今日、脳内出血で運ばれ現在半身麻痺の状態です。



命に関わる状態ではありませんが、今後は介護が必要です。” とのこと、



病院が心配したのは弟の保険証のことだったらしい。



弟の話では、さば父が持っていると言ったそうで、それで今回の騒ぎになったのだった。



狸寝入りのさば父に受話器越しに聞いてみると、



”持ってるわけが無い、これ以上弟とは関わりたくない” と連れない。



どうやってドクターに説明しようかと思ったが、ドクターは漏れ聴こえる音声ですべてを察したらしく、



”わかりました、こちらで保険無しで処理します”



ということになった。



× × × × × × ×



さば父の対応はあまりにも冷たいようだが、それなりの理由があるのだ。



第一に自身は年金暮らし、自分も病気がちなのに他人の治療費まで面倒見切れない。



弟は何年かにいっぺん、突然遊びに来ては父と楽しげに語らい、



ご飯を美味しそうに食べて帰っていく人だった。



そのときの台所での母の苦虫をつぶしたような表情、



さば父の、どことなく冷めた様子。



そんな突然の訪問も、20年以上前に途切れ、



5年前の祖母の葬式にも現れることはなかった。



弟は何度となく父に借金を繰り返し、返したことが無かったのだという。



× × × × × × ×



さばをの印象では、おじさんは何してるのか知らないけど、



いつも忙しく飛び回っていて、身に着けるものはブランド品。



よっぽど羽振りがいいんだと思っていた。



でも、今回の電話でそのさびしい人生が垣間見えた。



60過ぎて、社会保険にも加入できない職場環境、



おそらく日雇いとかだったんだろう。



職場の仲間はファーストネームも知らない。



最後に会ったときは、2人目の奥さんがいたはずだが、



父に連絡が来たということは、今はいないということだ。



”今にでかく儲けてやる、俺は兄さんみたいな勤め人にはならないぜ” みたいな事をよく言っていた。



担ぎ込まれた病院で、無保険がばれたら放り出されると思ったのだろう、



麻痺した身体で必死に父の名前を言ったのだ。



その最後の綱も絶たれてしまった。



× × × × × × ×



先のことも考えずに好き勝手にやってるとこうなるんだ。




その姿に自分の未来を見たような気がした。




きっと同じ一族だから、さばをはおじさんと似たのかも。



× × × × × × ×



その後テレビで見たが、収入の無い病人の医療費は生活保護でまかなわれるらしい。



その事実にまつわる諸問題はあるが、



とりあえずおじさんが寒空に放り出されることは無いようだ。