風が吹けば桶屋が儲かるという言葉がありますよね。ある事柄が起こる事により、一見全く関係のない所に影響が及ぶという事の例えです。具体的にどういった流れでそうなるかと言いますと、風が吹く、砂埃が立って人の目に入る、盲目の人が増える、盲目の人が弾くための三味線がよく売れる、猫の皮が大量に必要になる、猫が少なくなるとネズミが増える、ネズミが桶をかじって穴を空けてしまうので桶屋が儲かる、といった具合です。

しかし、昔のように土で出来た道路ならまだしも、今の時代風で舞い上がった砂埃で失明すると言われてもピンと来ません。そこでコピーライターをしている私に白羽の矢が立ったようです。

「現代版の風が吹けば桶屋が儲かるを考えてくれないか」

正直、そんなに難しい作業ではないと思いました。まず関係のない二つの事柄を考えて、その間を無理矢理埋めれば良いのですから。早速適当な単語「うどん」「歯医者」でかんがえてみることにしました。最初に考えたのがこれです。

「うどんを食べれば歯医者が儲かる」

うどんを食べる、虫歯になる、歯医者が儲かる。

まんまですね。これではダメです。では前後を逆にしてみましょう。

「歯医者に行くとうどん屋が儲かる」

歯医者に行く、お腹が空いたけど麻酔が効いているので柔らかいものを食べようとする、うどん屋が儲かる。

まんまですね。うどんと歯医者は相性が良くないようです。では、歯医者の代わりに「ピラミッド」という単語を使ってみましょう。

「うどんを食べればピラミッドが建つ」

時系列的に無理ですね。この世にうどんが生まれる前から恐らくピラミッドはありましたから。

「ピラミッドを観に行くとうどん屋が儲かる」

ピラミッドを観に行く、感動する、近くにあるスフィンクスも観る、感動する、エジプトの歴史をもっと知りたくなる...

ダメですね。ただ吉村作治みたいな人が増えるだけで、うどん屋が儲かる所まで繋がりません。

では「ピラミッド」と「歯医者」で考えてみましょうか。

「ピラミッドを観に行くと歯医者が儲かる」

うどん屋の時と変わりませんね、吉村作治が増えるだけです。

私はこの後も色々な単語で考えてみましたが、全く良い案が浮かびませんでした。私にはこの仕事は向いていないようです。五年前に妻と別れ、一人で暮らしてきました。こんな私を頼って仕事を与えてくれる方々に応える事が唯一の生きる糧でしたが、段々それも難しくなってきました。私は少し疲れてしまいました。これを書き終えたら命を絶ちます。私は天国行きでしょうか、地獄行きでしょうか。自ら命を絶つのですから地獄行きでしょうね。

この手紙を最初に読んでくれた貴方、別れた妻ですか?マンションの管理人さんですか?それとも初めてお会いする方ですか?いずれにしろ気を悪くなさらないでください。私は弱くてずるい人間です。一方的にですが、私がいなくなる理由を誰かに伝えたかったのです。最後まで読んでくれた貴方に、感謝します。

2013年2月4日 西島治

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